上下関係が存在する漢文では敬意の補足をしよう! | ハナシマ先生の教えて!漢文。

上下関係が存在する漢文では敬意の補足をしよう!

ポイント

  • 登場人物の上下関係を把握し、下→上(臣下から君主/使者から君主/弟子から先生/子供から親)へ語りかける場合、敬意を補足しよう!
  • 上下関係を見つけるポイントは、「名前の特徴」「語注の情報」「キーワード」である。
  • 君主は「桓公」「荘王」「武侯」「武帝」「太宗」など、「〇公」「〇王」「〇侯」「〇帝」「〇宗」のような名前が登場した場合、その人が上の立場である可能性が高い。
  • 上のような人物に加え、注釈で「政治家」「将軍」と説明されている人物が登場する場合、この8割がた2人が上下関係だと思ってよい。
  • 「キーワード」は、地の文で登場する謙譲語(「対(こた)ウ」「見(まみ)ユ」「献ズ」「奉ル」)と会話文中で登場する呼称(「子」「君」「公」「卿」「臣」「寡人」「孤」「妾」)である。これらで身分や関係が分かる。
  • 登場人物の関係が把握できれば、文章の情景が頭の中で想像しやすくなり、内容も把握しやすくなる。

こんにちは。本日は、「敬意の補足」についてお伝えします。

「主語と目的語」「反語と抑揚」「時制(過去)」に続いて今回は「敬意」ですか。
漢文って本当に色々補足が必要なんですね💦

漢文は簡略であることを重視し、ごちゃごちゃ付け足すのを嫌いますからね。仕方がありません💦しかし、しっかりと事前に省略されるものを知っていれば、そこまで怖くありませんよ!

そうなんですね💡しっかり勉強して漢文を読めるようになります!

敬意の補足は、漢文の現代語訳に必須ではありませんが、うまくすることができれば、全体の流れを理解しやすくなります。是非習得しましょう!

1、名前と語注から登場人物の上下関係を把握し敬意を補足しよう

「敬意の補足」をする前提として、登場人物の上下関係を知る必要があります。

具体的には、「上司と部下or使者」「先生と弟子」「親と子」が挙げられます。

どれも上下関係ですね!特に君主と部下が多い気がします💡

そうですね💡頻度としては、君主と部下>>>王様と使者>>先生と弟子>>親と子くらいのイメージです。君主と部下は鉄板です!

登場人物の関係性を見抜くためには、まず①名前と語注に注目した上で、②本文中のキーワードに注目する必要があります

2段階あるわけですね!それぞれ詳しく教えてください!

まず、①名前と語注については、君主は「桓公」「荘王」「武侯」「武帝」「太宗」など、「〇公」「〇王」「〇侯」「〇帝」「〇宗」のような名前が登場した場合、その人が上の立場である可能性が高いです。
また、上のような人物に加え、注釈で「政治家」「将軍」と説明されている人物が登場する場合、この8割がた2人が上下関係だと思ってよいです。

「公」「王」「帝」「宗」は、漢文読んでてよく出てくるから分かります!それぞれ意味が違うんですか?

厳密に言うとそれぞれ異なりますが、大学受験程度でしたら「すべて偉い人!」くらいの理解で大丈夫です!

また、そのような名前の特徴がなくとも、偉い立場の人である可能性もあります。
例えば、魏の武帝は、「魏武」「曹操」とも表記されることがあります。
その場合は、語注に人物の身分に関する情報が記されているので、そこから判断することができます。

だいたい人物に注釈付きますもんね!今度からは、身分の高さに気を付けて確認します!

そうですね!人に関する注釈は、「君主」「将軍」などの身分を押さえることが大切です。
また、「〇〇の国の人」という情報については、「君主と(他国からの)使者」のパターンでは大切になってくるので、注意しましょう!

「君主と(他国からの)使者」は、君主と使者で国が異なりますもんね!

その通りです💡まぁ本文で「○○が□□へ行く」みたいに書かれていることも多いので、そこまで注意せずとも分かると思いますが、一応見ておきましょう!

「上司と部下or使者」のほか、「先生と弟子」「親と子」でも名称と語注を見れば分かることが多いです。

2、キーワードから上下関係を把握し敬意を補足しよう

漢文における上下関係は、名前と語注でおおよそ把握することができますが、本文中のとあるキーワードでも把握することができます。

キーワードってどんなやつですか?💡

「地の文で登場する謙譲語」と「会話文中で登場する呼称」です。具体的には、以下のキーワードが挙げられます!

地の文で登場する謙譲語

「対(こた)ウ」=「お答えする」→目上の人の質問に答えるときに用いる。

「見(まみ)ユ)」=「お目にかかる」→目上の人に会うときに用いる。

「献(けん)ズ」「奉(たてまつる)ル」=「献上する」→目上の人に物をあげるときに用いる。

会話文中で登場する呼称

「子(し)」「君(きみ)」「公(こう)」「卿(きょう)」=「あなた」→相手を尊敬する表現。

「臣(しん)」=「わたし」→臣下が君主に対して謙遜した自称。

「寡人(かじん)」「孤(こ)」=「わたし」→君主が謙遜した自称。

「妾(しょう)」=「わたし」→女性が謙遜した自称。

なるほど…1で勉強した名前と語注に加えて、これらのキーワードをしっかりと抑えることができれば、上下関係はばっちりですね!

そうですね。上下関係が分かれば、下→上へ言葉を投げかけているとき、敬意を補足してあげましょう!

なお、「子」「卿」など=相手を尊敬していますが、だからと言って発言者が下という訳ではありませんし、「寡人」「孤」=君主が自身を謙遜していますが、だからといってその君主が下という訳ではありません。

身分は高いけど相手に敬意を示すことがあるということですね!気を付けます!

3、「君主と部下or使者」で敬意を補足する例

注目

「君主と部下or使者」で敬意を補足する例

【原文】

太宗嘗曰、「君依於国、国依於民。刻民以奉君、猶割肉以充腹。腹飽而身斃、君富而国亡矣。」又嘗謂侍臣曰、「聞、西域賈胡、得美珠、剖身而蔵之。有諸。」曰、「有之。」曰、「吏受抵賄法、与帝王徇奢欲而亡国者、何以異此胡之可笑邪。」魏徴曰、「昔、魯哀公謂孔子曰、「人有好忘者。徙宅而忘其妻。」孔子曰、「又有甚者。桀紂乃忘其身。」亦猶是也。」

【書き下し】

太宗嘗て曰く、「君は国に依り、国は民に依る。民を刻して以て君に奉ずるは、猶お肉を割きて以て腹に充たすがごとし。腹飽きて身斃(たお)れ、君富みて国亡びん。」と。

又嘗て侍臣に謂いて曰く、「聞く、西域の賈胡は、美珠を得ば、身を剖きて之を蔵すと。諸有りや。」と。曰く、「之有り。」と。

曰く、「吏の賄を受けて法に抵たると、帝王の奢欲に徇いて国を亡ぼすは、何を以て此の胡の笑うべきに異ならんや。」と。

魏徴曰く、「昔、魯の哀公、孔子に謂いて曰く、「人に好く忘るる者有り。宅を徙して其の妻を忘る。」と。孔子曰く、「又た甚だしき者有り。桀紂は乃ち其の身を忘る。」と。亦た猶お是くのごときなり。」と。

【語注】

太宗…唐の二代目皇帝。

西域…中国の西方地域を指す。

賈胡…異民族の商人。

魏徴…字は玄成。唐の建国に貢献した名臣。

哀公…春秋時代の魯の君主。

【現代語訳】

太宗はかつて言った。「君主は(その存在)を国に依存し、国は(その存在)を人民に依存して(成立している)。(にもかかわらず)重税を課して人民を苦しめ、君主に奉仕させるのは、あたかも自分の体を切って腹に満たすのと同じだ。満腹になってもその身は死んでしまうように、君主は富み栄えても国は亡びて(しまうだろう)。」と。

またかつて、側近の臣下に言った。「私の聞くところによると、西域の異民族の商人は、美しい真珠を手に入れれば、自分の体を切り開いてこれをしまっておくそうだ。これは本当か。」と。(側近が)言うには「その通りです。」と。(太宗は)言った。「役人が賄賂を受け取って法に触れるのと、帝王が贅沢な欲望に身を任せて国を亡ぼすのとは、どうしてこの異民族の商人の笑うべき行為と異なることがあるだろうか。(いや、一緒である。)」と。

魏徴が言った。「昔、魯の哀公が孔子に言いました。「よく物忘れをする男がいて、引っ越す際、自分の妻を(前の家に)忘れたそうだ。」と。孔子は言いました。「また、さらにひどい人がいます。桀王・紂王は自分の身を忘れ(て贅沢な欲望にふけり)ました。」と。これもまた(陛下がお話になった)この(話)と同じです。」と。

『十八史略』巻五

けっこう登場人物多いですが、太宗―側近・魏徴、哀公―孔子で上下関係があるのは理解できました!それぞれ下が上に語り掛けるとき、敬意を示せば大丈夫ですね💡

人物の上下関係に注目するのは、敬意の補足にも役立ちますが、文章の流れや構造を理解するのに役立ちそうです✨

そうですね💡
補足のついでに、内容の「重税を課して人民を苦しめ、君主に奉仕させるのは、あたかも自分の体を切って腹に満たすのと同じだ」にも注目して欲しいです。現代の政治家にもききそうな言葉だと思います。

最近、税金高くなってますもんね💦漢文は本当に現代にも通じる名言が多いなぁ…

4、「先生と弟子」で敬意を補足する例

注目

「先生と弟子」で敬意を補足する例

【原文】

子貢曰、「君子亦有悪乎。」子曰、「有悪。悪称人之悪者。悪居下流而訕上者。悪勇而無礼者。悪果敢而窒者。」曰、「賜也亦有悪乎。」「悪徼以為知者。悪不遜以為勇者。悪訐以為直者。」

【書き下し】

子貢問いて曰く、「君子も亦た悪(にく)むこと有りや。」と。子曰く、「悪むこと有り。人の悪を称する者を悪む。下に居て上を訕(そし)る者を悪む。勇にして礼無き者を悪む。果敢にして窒(ふさ)がる者を悪む。」と。曰く、「賜や亦た悪むこと有りや。」と。「徼(うかが)いて以て知と為す者を悪む。不遜にして以て勇と為す者を悪む。訐(あば)きて以て直と為す者を悪む。」と。

【語注】

子貢…孔子の弟子。字は賜(し)。

君子…立派な人物。

子…孔子のこと。

徼(うかが)う…他人の考えを盗む。

訐(あば)く…他者の秘密など、あばく必要のないものをわざわざあばく。

【現代語訳】

子貢が質問するには、「立派な人物でも憎むことがありますか。」と。

孔子が答えるには、「憎むことはある。人の欠点を言いふらす人を憎む。下位にいながら上位の人を悪く言う者を憎む。勇気はあるが礼儀のない人を憎む。決断力があるが道理が分からない者を憎む。」と。

(孔子が)言うには、「賜よ。お前にも憎むことがあるか。」と。

(子貢が答えるには)「他人の考えを盗みながら(自分では)知恵があると思っている人を憎みます。無礼でありながら(自分では)勇気があると思っている人を憎みます。(不必要なことを)あばきながら(自分は)正直だと思っている人を憎みます。」と。

『論語』陽貨篇

孔子―子貢でしっかりと上下関係が分かりました!なんか、実際に2人が話し合っているのが頭でイメージできました✨

実際の情景をイメージできるのはとても良いですよ!それも広い意味で補足力であり、漢文読解に必要な力です!

内容も面白いですね。孔子や子貢が憎む人って、現代でも嫌われることが多いので、気を付けたいです💦

そうですね💡謙虚に人間関係を築き上げたいものです。

以上、「敬意と補足」ということで解説してきましたが、いかがだったでしょうか?

登場人物の名前や語注、キーワードから上下関係を推測する能力は大切だと思いました!

漢文読解という意味では、敬意の補足よりそちらのほうが大切ですね(笑)
しかし、結果オーライということでよいでしょう!お疲れ様でした。

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