論語(孔子)が述べる「仁(じん)」とは何か? 広大で多面的?

1、仁によって富と身分を得ることが大切! 君子は仁を去りて、悪くにか名を成さん

【現代語訳】

 孔子がおっしゃるには、「富と高い身分は、人間が欲するものである。(しかし、)正しい道(=仁)を実践して得たのでなければ、(得た富や高い身分は)そこにとどまることはな(く、結局失ってしまう)。貧しさと低い身分というものは、人間が嫌うものである。正しい行い(=仁)を実践して得た富貴でなければ、それを失うことはな(く、富貴を保ち続けることができる)。

 君子が仁を失ってしまったら、どこで立派な人物だと讃えられるだろうか、いや、どの場所でも讃えられないだろう。君子は食事を終えるまでの(短い)間でも仁から離れることなく、不意の時であっても必ず仁に基づいて行動をし、つまづき倒れるような時でも同様である。」と。

【原文】

子曰、「富与貴、是人之所欲也。不以其道得之、不処也。貧与賎、是人之所悪也。不以其道得之、不去也。君子去仁、悪乎成名。君子無終食之間違仁、造次必於是、顚沛必於是。」

【書き下し】

子曰く、「富と貴とは、是れ人の欲する所なり。其の道を以て之を得ざれば、処らざるなり。貧と賎とは、是れ人の悪む所なり。其の道を以て之を得ざれば、去らざるなり。君子は仁を去りて、悪くにか名を成さん。君子は食を終わる間も仁に違うこと無く、造次にも必ず是に於てし、顚沛にも必ず是に於てす。」と。

【解説】

・前半はいわゆる「悪銭身に付かず」ということわざと通じる部分がある。汚い手段で得た金や身分は、結局保ち続けることはできない。人のために真っ当に働くことによって金や身分を得ることこそが、大切だと説く。
→世の中では、過程より結果に注目がいきがちですが、長期的な目で見た場合、時間がかかっても過程を大切にした上で結果を残した方が良いのかもしれません。

・後半は、仁が君子(=立派な人物)の必須条件であることを述べる。孔子はそれほど、仁を重要であるものと見なしていることが分かる。

2、智者(インテリ)の必須条件が仁? 択(えら)びて仁に処らざれば、焉んぞ知たるを得ん

【現代語訳】

 孔子がおっしゃるには、「仁なる者であり続けることは立派なことである。あれこれと選んで仁から離れてしまえば、どうして智者と言えるだろうか。(いや、言えない)。」(里仁篇)

【原文】

子曰、「里仁為美、択不処仁、焉得知。」

【書き下し】

子曰く、「仁に里(お)るを美(よ)しと為す。択(えら)びて仁に処らざれば、焉んぞ知たるを得ん。」と。

【解説】

・「仁」=知者(インテリ)の条件。現代日本のイメージとは違う?仁=まごころと頭の良さは別々に解釈されているイメージか。

・あなたは、「賢いけど人を見下したり利用したりする人間」をどう思いますか?恐らくマイナスなイメージを持つでしょう。そういう人は、1で述べたように、短期的に利益や地位を得られていても、結局は周りから支持を得られず孤立していき、失っていきます。

3、見返りを求めないのが仁? 仁者は難きを先にして獲るを後にす

【現代語訳】
樊遅はんちは)仁とは何かと尋ねた。孔子がおっしゃるには、「仁なる者は、難しい仕事を率先して引き受け、見返りを期待しない。この行いが仁というものだ。」と。(雍也篇)

【原文】

(樊遅)問仁。子曰、「仁者先難而後獲、可謂仁矣。」

【書き下し】

(樊遅)仁を問う。子曰く、「仁者は難きを先にして獲るを後にす。仁と謂うべし。」と。

【解説】

仁である人間=見返りを求めず人々が嫌がるような難しい仕事を率先して引き受けること

・人間は、利益が得られそうな仕事であるならば、難しくとも率先して引き受けようとしますが、難しいのに利益が得られなさそうな仕事は避けたがるものです。しかし孔子は、そのような仕事をあえて引き受けることが仁者であると述べます
→このような姿勢を小馬鹿にする人もいるとは思いますが、しっかりと評価してくれる人も必ずいます。そしてその評価は、結果的に自分の利益となってきます。

※樊遅は別の機会に同じ質問をした際の孔子の回答は、「仁とは人を愛することである」であった。

4、慎重に発言できるのが仁の条件? 仁者は其の言や訒(じん)

【現代語訳】

 司馬牛が仁について尋ねた。孔子がおっしゃるには、「仁なる者は、言葉を慎み深くする。」と。

 司馬牛がさらに「言葉を慎み深くするだけで仁と呼べるのでしょうか。」と述べた。孔子がおっしゃるには、「仁を行うのはとても難しいことだ。だからこそ仁なる人の発言は慎重なのである。」と。(顔淵篇)

【原文】

司馬牛問仁、子曰、「仁者其言也訒。」曰、「其言也訒、斯可謂之仁已乎。」子曰、「為之難、言之得無訒乎。」

【書き下し】

司馬牛 仁を問う。子曰く、「仁者は其の言や訒(じん)。」と。曰く、「其の言や訒、斯れ之を仁と謂うべきか。」と。子曰く、「之を為すこと難し。之を言うに訒なること無きを得んや。」と。

【解説】

・慎重に発言できるのが仁(者)の条件であるという発言。

・「慎重に発言できる」というのは、様々な意味が想定されますが、その1つに「偏見など、自分の価値観を押しつけずに発言している」というものがあります。
→「男は○○」「女は○○」「○○する人はバカ」など、狭い視野から断定的に物事を判断する人は、今も昔も多いです。このような人は、無意識に他者を傷付けており、仁ではないということになります。逆に、自身の価値観を持ちつつも、それを押しつけずに穏和な表現で表している人は、仁であるということだと思います。
→あなたは、自身の狭くて独善的な価値観によって発言していませんか?

5、「恭しいこと」「大らかなこと」 「誠実であること」「 機敏なこと」「恵み深いこと」が仁の条件? 恭・寛・信・敏・恵なり

【現代語訳】

 子張が仁について尋ねた。 孔子がおっしゃるには、「五つのことを世の中で行うことができたら、 仁と言える。」と。(さらに孔子に五者について)お訊ねすると、(孔子が仰るには、)「恭しいこと、大らかなこと、 誠実であること、 機敏なことと恵み深いことだ。 恭しければ侮られず、 おおらかであれば人望が得られ、 信(まこと)があれば人から頼りにされ、 機敏であれば仕事ができ、 恵み深ければ巧く人が使えるものだ。」と。(陽貨篇)

【原文】

子張問仁於孔子。孔子曰、「能行五者於天下為仁矣。」請問之。曰、「恭・寛・信・敏・恵。恭則不侮、寛則得衆、信則人任焉、敏則有功、恵則足以使人。」

【書き下し】

子張 仁を孔子に問う。孔子曰く、「能く五つの者を天下に行なうを仁と為す。」之を請い問う。曰く、「恭・寛・信・敏・恵なり。恭なれば則ち侮られず、寛なれば則ち衆を得、信なれば則ち人任じ、敏なれば則ち功あり、恵なれば則ち以て人を使うに足る。」と。

【解説】

・仁の条件を5つ列挙したもの。それぞれもう少しかみ砕いて説明すると、以下のようになります。

恭=他者に対して図々しくなく控えめであること。

寛=他者に対して優しく、他者の意志を尊重させてあげること。

信=他者に対して、騙すこと無く、真心でもって接すること。

敏=他者の気持ちを慮った言動ができること。

恵=利己的ではなく、他者に与えることができること。

→どれも人間にとって必要な素養だと思います。逆に言えば、図々しい人間、他者に厳しすぎる人間、嘘ばかり付く人間、無神経な人間、自分本位の人間は仁ではないということです

6、まとめ 孔子が述べる仁とは何なのか?

・以上の孔子の発言を見る限り、仁とは「人間関係を円滑にする上で大切な能力」と言うことができる。

・また、3・4・5のように、異なる弟子に「仁」について質問された際、異なる回答をしているが、これは仁が非常に広大で多面的であり、一つの言葉のみで端的に言い表せないものだからでは?

※よく言われるのは、「孔子は、各弟子に欠けている素養に合わせて発言したのだ」という説である。

→実際問題、「人間関係を円滑にする上で大切な能力は何か?」と質問されて、思いつく能力は多いのではないでしょうか?

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