老子(ろうし)の考え方・名言を紹介 生きづらさを感じている方・視野を広げたい方へ

1、老子とはどのような人?

・『老子』の作者とされている人物。また、道家(どうか)思想や、道教(どうきょう)(道家思想を母体としつつ発展した民間宗教。不老(ふろう)長生(ちょうせい)を目指す。)の開祖と伝えられている。道教では「太上老君(たいじょうろうくん)」という神様として祀られている。

・『史記(しき)』によれば、老子は孔子と同年代の人物であり、孔子に礼を問われたという。また、(しゅう)王朝に仕えていたが、周の王朝の衰退を見て西のほうに旅立ったとも言われる。ただし、その伝記は曖昧で、実在の人物であったかどうかについては不明である。

・一説によれば、『老子』は古い時代に中国で伝えられていた格言を何者かが編集し、老子に仮託させて成立した、とされている。

2、無為自然と逆説的思想 老子の思想を貫く2つのキーワード

無為(むい)自然(しぜん)とは?
・「為すこと無くして自ずから然り」=「ことさらな作為をせず、自然(素朴)なままの状態にいることが理想である」という思想。老子が考える「ことさらな作為」とは、学問や知識、礼、法律、技術など、人の築き上げた文明全般である

・通常の価値観だと、これらは全て「良いもの・人々を幸せにするもの」と見なされるが、老子は逆にこれらが存在するからこそ、人々は不幸になるため、捨て去るべきだと主張する。=アンチ文明。このように、老子の考え方は非常に逆説的でひねくれている。

逆説的思想とは?
・一見真理でないようにみえるが、実際には真理であるさまを表す。「急がば回れ」「可愛い子には旅をさせよ」などは、逆説的理論の具体例。

(例)「急がば回れ」
・好きな人と付き合いたかったとして、いきなり告白するのが近道だが、成功率は低い。色々とアプローチを重ねて仲良くなってから告白するのが常道である。これは一見回り道をしているように見えるが、実は最も近道である
→老子の「人間は文明を発達させたからこそ、不幸になってしまう」という考え方も、同様のロジックを持っている。

・このような考え方には、「人は何もせずとも、(みち)(=万物を生み出し、無為自然を実践する存在)によって、元々善良な存在であったのにも関わらず、余計なものを身に付けることによって不完全な存在になった」という人間観が存在する。従ってある意味、孔子・孟子(もうし)よりもはるかに人の本性が善だと信じている。

3、学を絶てば憂い無し 勉強はよいことばかりではない?

【現代語訳】
学ぶことを止めてしまったら、心配事は無くなるだろう。

【原文】
絶学無憂。

【書き下し】
学を絶てば憂い無し。

【解説】
・学ぶことをマイナスに捉える言葉。なぜ老子は学びを否定するのか?それは、学びには多くのデメリットがあるからである

デメリット① 優劣・美醜などの価値観を学ぶことが悩み・コンプレックスの種になる
・人間は、優劣・美醜の価値観を学ぶことにより、それに縛られてしまう。たとえば自分が不細工と知ってしまった人はそれに苦しむ。また、勉強やスポーツ・恋愛などにおいて、しばしば「他人より劣っている」という劣等感を抱えてしまう。(だからこそ努力・向上できるという考え方もあるが…)

・人間は、劣っているから苦しむのではなく、劣っていると学んでしまうからこそ、苦しむのである。
→あなたの悩みは何でしょうか?その悩みは、「○○と比べて悪い・劣っている」というものではないでしょうか?だとすれば、それは学習のデメリットを受けていることになる。

デメリット② 優劣・美醜などの価値観を学ぶことにより、差別のきっかけを生んでしまう
・学ぶ・知るには「理解(理=筋目を立ててバラバラにする。)」「分析(分けて析く)」「判断(バラバラにする)」が類似語句として挙げられる。これらはすべて「分ける」という意味を共有している。つまり、学ぶ/知る=分けるということであり、分けることは差別に繋がってしまう危険性がある。
→逆に言えば、何も知らなければ差別は起こりえないのでは?物事や価値観の違いを知った上で、差別せずにうまくやっていくのは相当難しい。

デメリット③ 学習によって発明された便利な道具が競争の激化・貧富差の拡大・過労死に繋がる
・電気やパソコンが発明されてから、人間はいつでもどこでも働くことができるようになった。また、船や飛行機が発明されたことにより、国際化が進み、競争相手が全世界となり、経済競争が激しくなった。
→近年増加している過労死や会社の倒産などは、便利な道具がもたらしたという側面が存在するのでは?

デメリット④ 学習によって発明された便利な道具が人を効率的に殺してしまう
・銃やダイナマイトや原爆など、人を簡単かつ大量に殺せる道具が無ければ、戦争の被害は少なくなったのでは?

デメリット⑤ 医学の発展によって人間の生存率・寿命が上がり、高齢化問題に発展する
・医学の発達していなかった時代には、高齢化問題は存在しなかった。医学が発達して本来救えなかった高齢者が増えたからこそ、社会が高齢化して対応できていないという側面も存在する。

デメリット⑥ 機械・AIの発達により人々の職が奪われ、失業者が増えてしまう
・レジ・受付・計算など、特殊なスキルが必要なく、ある程度決まった作業を行う仕事は、徐々に機械に変わってきている。これは一見、便利で素晴らしい技術の進歩だが、それによって職を奪われる人がいるのも事実。

デメリット⑦ 移動手段の発達により、新型コロナウィルスが全世界に広まってしまった
・現代ほど移動手段が発達せず、世界の人々の行き来が無かったのなら、ここまでコロナウィルスは広まらなかったと思われる。

まとめ
・上に挙げた例はほんの一例である。もちろん、学習や技術によって、人間は生きやすくなったり、昔なら死ぬしか無かった人の命が救われているのも事実である。しかし、少なくとも学習や技術はメリットだけではないということは事実であり、手放しに尊重することは危険である。老子はメリットよりデメリットのほうが多いと思ったからこそ、「学を絶てば憂い無し」と述べたのだろう。

・我々がよりよく生きていくためには、学習や技術のデメリットを熟知した上で、デメリットをできる限り減らし、メリットを増やしていく努力が必要なのかもしれない。

4、五色は人の目をして盲せしむ 贅沢が我々を破滅へと導く?

【現代語訳】
多様な色彩は、人間の目をくらませる。(贅沢は満足を失わせ、さらなる欲望をかきたててしまう。)

【原文】
五色令人目盲。

【書き下し】
五色は人の目をして盲せしむ。

【解説】
・ここで言う「多様」=「贅沢」の意味合いが強く、人は多様で贅沢な色彩に慣れると、単一で素朴な色彩が味気なく感じ、満足できなくなってしまう。そして、さらなる贅沢を求めてしまう。老子はこのことを戒める。
→贅沢によって自分の欲望が暴走してしまうことは、現代でもよくある。そして、現代においてその欲をかき立てているのが、「便利な道具orサービス」である。

民衆に便利な道具が多くなると、国家はますます乱れてしまう。(民に利器多くして、国家ますます昏(みだ)る)(第五十七章)

(例)ネットショッピング+クレジットカード
・沢山の品物をクリック一つで便利に見ることができ、簡単に買い物ができるが、だからこそついつい買いすぎたり、余計なものを買ってしまった経験はないでしょうか?

(例)スマートフォン
・沢山の面白い漫画やゲームなどの娯楽を気軽に振れることができるが、それによって寝不足になったり、やるべきことができなくなったりした経験はないでしょうか?

(例)食べ放題のバイキング
・沢山の美味しい料理が食べ放題なので、ついつい余計に食べ過ぎて苦しくなったり、太ったりしてしまった経験はないでしょうか?

(例)見放題のサブスク(アマプラ・Huluなど)
・いくら見ても定額なので、ついつい見過ぎてしまって、生活に支障をきたしたことはないでしょうか?

まとめ
・便利であることは良いことばかりではない。人間の欲望を必要以上にかき立て、ダメにしてしまうこともあります。何をしても満たされない方は、あえてスマホやネットを絶ってみるのもありかもしれません。

5、柔弱は剛強に勝つ 弱い存在こそが勝利する?

【現代語訳】
柔らくて弱々しいものが、かえって堅いものや強いものに勝つ。

【原文】
柔弱勝剛強。

【書き下し】
柔弱は剛強に勝つ。

【解説】
・常だと堅くて強い存在が勝つのが常識だが、老子は柔らかくて弱々しいものこそが勝つとする。具体的には、水・女性・赤子こそ優れた理想の存在に近いと見なす。

・では実際に「柔らくて弱々しいものが、かえって堅いものや強いものに勝」った例とは、どのようなものが挙げられるか?

(例)美女と権力を持つ男
・柔弱な(美)女が屈強な男や強い権力を持つ男を籠絡させて操ることはしばしば起こる。
→唐の楊貴妃と玄宗、クレオパトラとカエサルなど

(例)女性・子どもと男性
・戦時中、非力な女子供は兵士として参加せずに生き延び、力のある男は参加して命を落とすことが多かった。

(例)木造家屋と鉄筋コンクリートの家屋
・鉄より柔弱な木造家屋が、剛強な鉄筋コンクリートの家屋より長持ちすることがある。(手入れが必須だが、法隆寺は築1300年を越える木造建築物である。)

(例)天皇家と将軍家
・天皇家は長い歴史上、権力が弱い状態が続いたが、剛強な歴代幕府より長く継続している。(伝承によれば2700年)

(例)心身が弱い人間と心身が強い人間
・現代日本において、諸々の病気や障がいで就労不可の柔弱な人物は生活保護をもらい生き延び、身体や精神が強い人物は限界まで仕事して過労死することがある。

(例)雑草とコンクリート
・道ばたで、コンクリートの隙間から雑草がよく生えているが、コンクリートは100年もすればダメになってしまうが、雑草は代を変えて生き残る。

(例)ベトナム戦争におけるベトコン軍とアメリカ軍
・圧倒的な兵力を持っていたアメリカ軍は、地の利を活かしてゲリラ戦を行ったベトコン軍に勝てなかった。

(例)恐竜とほ乳類(人間)
・隕石落下から氷河期へ至るまでで、当時最強であった恐竜が滅びた一方、人間をはじめとするほ乳類など弱い生物は生き残った。

6、強梁なる者は其の死を得ず 頑固者はろくな死に方をしない?

【現代語訳】
強者はろくな死に方をしない。

【原文】
強梁者不得其死。

【書き下し】
強梁なる者は其の死を得ず。

【解説】
・強者であることは、時にろくでもない結末を生んでしまうという言葉。
(例)優れていて強いからこそ、地位や名誉が得られるが、なにかトラブルがあればすぐに失ってしまう。
(例)優れていて強いからこそ、他者から頼られすぎて過労死してしまう。

【まとめ】
・強い存在であることは、場合によっては自分にとってマイナスなことがあるので、心当たりがある人は、1度自分を見つめ直すのも良いか。

7、既く以て人に与えて己 愈多し 他者に尽くし施せる人間こそが逆に豊かになる?

【現代語訳】
なにもかも他者のために尽くして、(逆に)自分がますます満たされ、
なにもかも他者のために施して、(逆に)自分がますます豊かになる。

【原文】
既以為人己愈有、既以与人己愈多。(81章)

【書き下し】
既(ことごと)く以て人の為にして己愈(いよいよ)有し、既く以て人に与えて己 愈多し。

【解説】
・他者のために尽くせる人間こそが、逆に充実や幸福を得られるという名言。
→逆に考えれば、自分が他者からもらうことばかり考えていても、幸せは得られないということになる。心当たりがある方も多いかも?

8、現代における老子の意味とは?(まとめ)

 老子は、世の中の事象について、非常に独特でひねくれた考え方を持つ。ただし、現在までの歴史を鑑みると、その言い分が的中しているケースも珍しくない。また、作為だらけ(例:競争を強いられる、自身をアピールしなければならない)の現代社会において、「無理に頑張らなくても自然体で良い」と、肩の力を抜く際役に立つ思想だと言うことができる。さらに、常識に囚われない創造力や発想力の源にとして有用かもしれない。

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