ポイント
- 「寡人」とは、「私」の意味で、身分の高い人が謙遜する言葉。(その他、漢文における呼称は以下のページを参照→漢文における呼称表現(自称と他称)のバリエーションを知ろう)
- 元々「徳寡(すく)なき人」=「人徳が少ない人」の意味であり、中国には「身分の高い者は謙遜すべき」という考え方があったから生まれた。
- 日本でも「身分の高い者は謙遜すべき」という考え方はある。
- 日本にも自称によって謙遜する文化が存在する。(僕・拙者・小生)
- 「(徳)寡人」のように、二字熟語には無理やり二字にしているものが存在している。(寡黙・出禁)
- →漢文の重要単語を抑えよう!一覧26コ(名詞篇)
- →漢文における「読めない」「意味が分からない」となりがちな漢字一覧 100コ(名詞以外篇・受験対策)
1、寡人ってどんな意味?
先生!今日は「寡人」について学ぶんですか?でも意味はもう知ってますよ!「わたし」って意味ですよね?
背景知識と熟語力、どちらも大切なのは授業で学びました。「寡人」でそれが伸ばせるなら、少し聞いてみようかな💡
マオさん、そもそもなぜ「寡人」=「私」という意味になるのでしょう?
なんでだろう?とりあえず暗記しただけなので分かりません…
暗記も大切ですが、もし可能なら「なぜそうなのか?」を常に考えながら「理解」しましょう。これは漢文に限らず、どの教科でも大切です。受験はもちろんですが、社会に出た後でも、物事を論理的に考える力は、求められ続けます。常に「なぜ?」という疑問を大切にしましょう。
常に疑問を持ち続けるのが大切なんですね。正直、社会に出た後のことはまだ全然想像できないけど…頑張ってみます!
確かに高校生の時点ではイメージしづらいと思います。ひとまずここは私の言葉を信じてみて下さい。もし10年経っても、疑問を持つ大切さが感じられないのなら、お酒の一杯でも奢ります笑
私は高級でおしゃれなフルーツ盛りがいいなぁ…
奢る状況にならない自信はありますが、分かりました笑。
それで結局、「寡人」はなぜ「わたし」という意味なのですか?
「寡人」とは、元々「徳寡(すく)なき人」=「人徳が少ない人」の意味であり、中国には「身分の高い者は謙遜すべき」という考え方があったからです。
2、中国と日本の謙遜の文化
「身分の高い者は謙遜すべき」?どういう意味ですか?
これは、現代の「偉い人ほど腰が低くて偉ぶらない」という傾向と似ています。マオさんは、今まで「偉い人」と会ったことがありますか?
そうだなぁ…うちの校長先生とかかな?
そうですね。この高校の校長先生は、他の先生にいつも気さくに声をかけ、保護者の方にも丁寧に接しています。これが、「偉い人ほど腰が低くて偉ぶらない」 ということです。
確かに、私のお母さんはPTAの係で校長先生と話したことあるみたいだけど、「腰の低い方で話しやすかったわ~」て言ってました。
逆に校長先生が、色んな人に偉そうな態度を取っていたらどうですか?
嫌ですね…というか、偉そうな態度を取る人は誰でも嫌いです笑
私も同感です。現代では、偉いからといって偉そうな態度を取ると嫌われてしまいます。これは昔の中国でも同じです。恐らくこのような理由から、「身分の高い者は謙遜すべき」という考え方が生まれ、その結果として「寡人(=人徳がなく至らない人)」という言葉を自称とするようになったと思われます。
なるほど…なんか、昔の中国って異次元の世界だって思ってたけど、案外似た所もあるんですね!
3、日本の自称と謙遜の文化
違う所も沢山ありますが、結局は同じ人間なので、本質的な部分では変わりません。マオさん、せっかくなので、「日本の自称と謙遜の文化」についても学んでみましょう!
実は、現代日本語にも謙遜(=自分を下げる)の意味のある自称が存在します。なんだと思いますか?
自称は、自分の呼び方だから…私・俺・僕…この中にありますか?
「僕」は現代だと謙譲の意味はほとんどありませんが、元々はありました!「下僕」の「僕」なので。
確かに、普段何気なく男子が「僕」って言ってるけど、「下僕」の「僕」ですね。
この他、古い言葉として「拙者(せっしゃ)」「小生(しょうせい)」というものがありますが、漢字から分かるように、どちらも自分を下げています。
「拙」は「つたない」、「小」は「ちいさい」だから、確かにあまり良い意味ではないですね。小生は聞いたことがないですが笑
「拙者」は、よく時代劇とかでお侍さんが言ってますね。「小生」はご老人や、たまにマンガのキャラクターが使っていたりします。
そういえば、私が好きな『黒執事』というマンガの「葬儀屋」が使ってました!今気付いた…
話を戻すと、中国の「寡人」と、日本の「僕」「拙者」「小生」は、どれも「自称によって腰を低くしよう」という点では一緒です。
なるほど…こうしてみると、割と中国文化にも親近感が湧いてきました!
4、二字熟語の省略現象について
「寡人」を通じてもう一つ知って欲しいのは、「二字熟語はしばしば漢字が省略されている」ということです。
漢字を省略?どいうことですか?
「寡人」は、元来意味的には「徳寡人(徳が寡ない人)」でしたが、最終的には「寡人」として定着しました。つまり、「徳」が抜け落ちてしまったということです。このような現象は、他の熟語でも見られます。
どんな熟語に見られるんですか?
例えば、「寡人」と同じく「寡」を使っている「寡黙」が挙げられます。マオさん、「寡黙」とはどのような意味ですか?
「口数が少なくってずっと黙っている」ですか?
その通りです!ここで注目して欲しいのは、「口数が少ない」です。マオさん、「寡黙」という二字に「口数」という意味がありますか?
「寡」が「少ない」で、「黙」が「黙っている」だから…あれ?無いですね💦
そうなんですよ。意味から考えると、「寡黙」は何が「寡(すく)ない」か明らかではないんですよ。親切にするなら、「言寡黙」と表すべきです。
この他、「出禁(できん)」は本来「出入禁(止)」とすべきです。「出禁」なら「出ることを禁止」であり、監禁しているみたいなニュアンスになってしまいます。笑
本当だ笑。熟語って当たり前のように使ってるけど、ちゃんと考えると不思議ですね…
この現象は、「漢文が簡略であることを尊ぶ」ことと密接に関わっています。多くの熟語は漢文の中で生まれたものですし、熟語もなるべく簡略にしようとするのは、自然といえば自然です。
熟語って漢文から生まれたんですか!?
例外もありますが、多くの熟語がそうです。というか、熟語は最小単位の漢文ということができますね。
このような熟語の省略現象は、知っておくと漢文読解にも役立つことがあると思います。