まとめ
- 切ない恋愛の漢詩として、1杜甫「月夜(げつや)」、2李商隠「無題」、3魚玄機「寄李億員外(李億員外に寄す)」が挙げられる。
- 1は男性側から逢えない妻への気持ちを切なく表現し、2は悲恋を美しく表現し、3は女性から捨てられた男への気持ちを切なく表現する。
こんにちは。本日は、切ない恋愛の漢詩を3つご紹介します!
こんにちは!これまで恋愛系の作品はいくつか紹介してもらいましたが、恋愛系の漢詩って割とあるんですね💡漢詩と恋愛があんまり結びつかなくて💦
確かにあまり有名ではないですが、割とありますよ!今回は恋愛系の中でも、どちらかというと暗く切なくなる作品をご紹介します。
1、離れ離れの妻を想う 杜甫「月夜(げつや)」
現代語訳
今夜、私の大切な妻は、鄜州(ふしゅう)の月を寝室から独りで見ていることだろう。
とても大切に思う幼子たちは(幼すぎて)、長安(で捕らえられている私の身)を心配することさえできない。
かぐわしい霧に濡れて(妻の)結った黒髪は潤い、清らかな輝き(の月に照らされ)、玉のように美しい(妻の)腕は寒々(と輝いていることだろう。)
いつになったら(お前と)静かな部屋のカーテンに寄り添い、月の光で泣き止んだ顔を照らすことができるだろうか。
本文
今夜鄜州月、閨中只独看
遥憐小児女、未解憶長安
香霧雲鬟湿、清輝玉臂寒
何時倚虚幌、双照涙痕乾
書き下し
今夜 鄜州(ふしゅう)の月、閨中(けいちゅう)に只だ独り看る
遥かに憐む小児女、未だ長安を憶うを解せざるを
香霧に雲鬟(うんかん)湿(うるお)い、清輝(せいき)に玉臂(ぎょくひ)寒からん
何れの時か虚幌(きょこう)に倚(よ)り、双(とも)に照らされて涙痕(るいこん)乾かん
注釈
五言律詩。「看」「安」「寒」「乾」が押韻。
鄜州…土地名。この時、杜甫の妻子はここにいた。
閨中…寝室。
雲鬟…美しく結った髪。
玉臂…女性の美しい腕。
虚幌…部屋のカーテン。
杜甫はこの時、反乱軍に捕らえられており、家族と離れ離れでした。そのような中、愛する妻や子どもの身を案じていることが分かります。
どちらかと言うと、妻への気持ちが多いですね💡杜甫さんって愛妻家だったんですね。個人的にポイント高いです✨
そうですね。杜甫は愛妻家といって良いと思いますよ!当時は一夫多妻だったので、杜甫は複数の妻を持つことができましたが、生涯1人の妻しか持ちませんでした。ちなみに李白は4人妻がいました。
杜甫のポイント上がりました!あと、「かぐわしい霧に濡れて(妻の)結った黒髪は潤い、清らかな輝き(の月に照らされ)、玉のように美しい(妻の)腕は寒々(と輝いていることだろう。)」みたいに、妻を褒めちぎっているのも良いですね✨お嫁さんはキレイだったんですかね?
かもしれませんね。この時点で結婚して15年は経っていましたし、身内のひいき目があったのかもしれませんが、それでも素敵だと思います✨
あと、後半2句の「いつになったら(お前と)静かな部屋のカーテンに寄り添い、月の光で泣き止んだ顔を照らすことができるだろうか。」の部分も素敵です。単に「妻と会える」ことをここまでキレイに表現できるものかと思います💡
そうですね。カーテン越しに杜甫と嫁さんの顔が月明かりに照らされる様子は、思い浮かべるだけで非常に美しいと思います✨
なお、月が登場する漢詩については、以下のページにまとめていますので、興味があればどうぞ!
2、周りから反対されている恋愛模様を描く 李商隠「無題」
現代語訳
(2人は)会う事も別れる事も難しく、春の風は弱々しく吹き、多くの花がくずれてしまう(ように、2人の関係はあやうい)。
春の蚕が死に至るまで糸を吐き続け、ロウソクが燃え尽きてはじめて涙が乾く(ように、女は死ぬまで愛する男を想う)。
(女は身を調えようとして)朝の鏡を見ると、憂いで豊かな美しい髪の毛が衰えてしまっており、夜にうたっても一人きりなので月の光が冷たく感じる。
(女のいる)蓬莱山までさほど遠くはない。(蓬莱山まで使いとなる)青い鳥よ、どうか(彼女の様子を)念入りに探ってみてくれないだろうか。
本文
相見時難別亦難、東風無力百花残
春蚕到死絲方盡、蝋炬成灰涙始乾
暁鏡但愁雲鬢改、夜吟應覚月光寒
蓬山此去無多路、青鳥殷勤為探看
書き下し
相見る時難く別れるも亦た難く、東風は力無く百花残(そこな)う
春蚕死に到たりて糸方に尽き、蝋炬(ろうきょ)灰と成り涙始めて乾く
暁鏡(ほうぎょう)に但だ愁い 雲鬢(うんびん)を改め、夜に吟ず応に覚える月光の寒きを
蓬山(ほうざん)此より去ること多路無く、青鳥 殷勤探り看ることう為さん
注釈
七言律詩。「難」「残」「乾」「寒」「看」が押韻。
東風・百花…暗に2人の関係を例えている。
春蚕・蝋炬…それぞれ女を例えている。
暁鏡…朝の鏡
雲鬢…豊かな美しい髪
蓬山…蓬莱山のこと。仙人が住むと言われた伝説の山
切ない恋の歌というのは分かりますが、曖昧で分かりづらい部分が多いです💦まず、冒頭の「(2人は)会う事も別れる事も難しく」は具体的にはどんな状況なのでしょう?
そこの解釈は難しいですが、女性側は仙人の住む蓬莱山(ほうらいさん)に住んでいるみたいなので、神様や仙人など、人ではない可能性がありますね💡
もしくは、唐の時代には現在の山東省に蓬莱県という地域があったので、そこを指している可能性もありそうです。
「女性=神様」で「男性=人」の許されぬ恋だとすれば、 「(2人は)会う事も別れる事も難しく」はしっくりきますし、めちゃくちゃロマンチックになりますね✨
神と人との恋は許されぬ恋の典型ですね✨現代のアニメやマンガであるような気がします。古い作品ですが、「狼と香辛料」を思い出しました。
ロマンチックではありますが悲恋なので、すごく切ないですね…
そうですね。あと個人的には、「東風」「百花」が暗に2人の関係を、「春蚕」「蝋炬」が女をそれぞれ例えている所が切ないながら美しく感じます✨
3、捨てられた男に送る 未練たらたらの気持ち 魚玄機「寄李億員外(李億員外に寄す)」
現代語訳
(昨夜は遅くまであなたのことを思い続けて、やっと明け方に寝たので)なんだか太陽に照らされるのが恥ずかしく、うすい袖でさえぎり、この春を憂い悲しみ、起きて化粧をする気にもなれません。
高価なものを手に入れるのは簡単ですが、本当の愛をそそいでくれる男を見つけることは、とても難しいものです。
ひとり寝の寂しさにひっそりと枕をぬらし、せっかく楽しむべき春の花の中にいても、心の中は悲しく腸もちぎれるほど辛くもどかしいです。
しかし、自分から好きな人のおそばへ行ったのだから、見捨てられた今でも、あなたのことを恨んだりはしません。
本文
羞日遮羅袖、愁春懶起粧
易求無価宝、難得有心郎
枕上潜垂涙、花間暗断腸
自能窺宋玉、何必恨王昌
書き下し
日を羞じて羅袖に遮り、春を愁いて起粧に懶す
無価の宝を求むるは易きも、有心の郎を得るは難し
枕上潜かに涙を垂れ、花間 暗に腸を断つ
自ら能く宋玉を窺う 何ぞ必ずしも王昌を恨まん
注釈
五言律詩(タイトルは「贈鄰女(鄰の女に贈る)」という説もある。)
「粧(しょう)」「郎」「腸」「昌」が押韻。
寄李億員外(李億員外に寄す)…李億はかつて作者が愛していた男性であり、この時点では捨てられていた。「員外」は役職名。
宋玉(そうぎょく)…戦国時代の詩人で美男子であった。ここではかつて愛し合っていた李億(りおく)を指す。
王昌(おうしょう)…「嫁いだ男とは別の男」の意。ここでは李億を指す。「その昔、莫愁(ばくしゅう)という女性は、「盧(ろ)」という裕福な家に嫁いだが、金持ちではないが幼なじみの王昌に嫁いだ方が幸せだった」という話を踏まえている。
これも中々切ないですが、1、2とは別の意味で切なく感じます💦
作者の魚玄機(ぎょげんき)は、李億という男性と恋仲になりますが、李億には既に正妻がおり、正妻の圧力で別れさせられます。この詩は、李億と別れさせられた後に書いたものだと推測されています。(異説有り)
それは辛いですね…そしてこの作品は、一見すごく未練たらたらに見えますが、最後に「しかし、自分から好きな人のおそばへ行ったのだから、見捨てられた今でも、あなたのことを恨んだりはしません。」とあるから、スッキリとした気持ちも感じられますね💡
そうですね。しかしどちらかというと、「もう未練がないと強がっているがそれを隠きれていない」という気持ちを感じます。
それっぽいですね💦そもそも、本当に吹っ切れているのなら、こんな作品作りませんもんね💦笑
個人的に注目したいのは、「高価なものを手に入れるのは簡単ですが、本当の愛をそそいでくれる男を見つけることは、とても難しいものです。」の部分です。これは本当に名言だと思います✨
「金より愛のほうが手に入れるのは難しい」ってことですね。これは真理かもしれません。
素敵な言葉ですが、シチュエーション的には重く響きます。魚玄機にとっては、切実な叫びだったでしょうね。魚玄機は結局、李億と復縁することはありませんでした。
魚玄機さんかわいそう…
以上、切ない恋愛系の漢詩を紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
どれも切なかったですが、「切ない」の意味がそれぞれ大きく違っていました💡1は男性側から逢えない妻への気持ちを切なく表現し、2は悲恋を美しく表現し、3は女性から捨てられた男への気持ちを切なく表現していて、どれも素敵でした✨ありがとうございました!