こんにちは。本日は、漢詩の中でも月が登場する漢詩を5つ紹介します!
こんにちは。月といえば、現代でも絢香さんの「三日月」とか、歌われることが多いですね💡
そうですね💡漢詩でもよく取り上げられるので、是非1つでも気に入った作品が見つかれば嬉しいです。
もくじ
まとめ
- 月が登場する漢詩として、李白の「月下独酌(げっかどくしゃく)」「静夜思(せいやし)」、張九齢の「望月懐遠(月に望みて遠きを懐う)」、白居易の「対月憶元九(月に対して元九を憶う)」、阿倍仲麻呂の「望月望郷(月を望みて郷を望む)」が挙げられる。
- 「月下独酌(げっかどくしゃく)」は春の夜に独りで酒を飲んで楽しむ漢詩であり、「静夜思」「望月懐遠」は遠く離れている故郷を想う漢詩、張九齢の「望月懐遠(月に望みて遠きを懐う)」は遠距離恋愛する女の気持ちを歌う漢詩、白居易の「対月憶元九(月に対して元九を憶う)」は遠く離れた所にいる親友を心配する漢詩。
- 月は遠く離れている人の間でも一緒であり、また人間が物思いにふけるのは夜が多いから、「月」と「遠くにいる大切な人」「故郷」を想うことはよく結びつくか?
1、春の夜に独りで酒を飲んで楽しむ 李白 月下独酌(げっかどくしゃく)
【現代語訳】
花の下で一壺の酒を一人で飲み、相手はいない。
(しかし)盃を挙げて明るい月が昇っていくのを迎えると、私と月と(私の)影とで三人になった。
月は酒を飲まないし、影は私の後をついてくるばかりだが、しばらく二人を引き連れ、春をめいっぱい楽しもう。
私が歌えば月は歩き回り、私が舞えば影も舞う。
酔いが覚めている間は共に楽しみ、酔った後はそれぞれ別れ去る。
(このような)しがらみのない素敵な関係を築き、
天の川での再会を誓おう。
【本文】
花間一壺酒、独酌無相親
挙杯邀明月、対影成三人
月既不解飲、影徒隨我身
暫伴月将影、行楽須及春
我歌月裴回、我舞影凌乱
醒時同交歓、醉後各分散
永結無情遊、相期邈雲漢
【書き下し】
花間 一壷の酒、独り酌(く)みで相親しむもの無し。
杯を挙げて名月を迎え、影に対して三人と成る。
月既に飲むを解せず、影徒(いたづら)に我が身に随う。
暫(しばら)く月と影とを伴い、行楽須らく春に及ぶべし。
我歌えば月徘徊し、我舞えば影凌乱す。
醒むる時ともに交歓し酔いて後は各々分散す。
永く無情の遊を結び、相期す遥かなる雲漢に。
※雲漢…天の川
なんか、めちゃくちゃ風流で粋って感じですね✨特に、「独酌(独りで呑む)」と言いつつも、「月と影とで三人になった」ってする所がオシャレです✨
そうですね💡孤独というのは、普通だと暗いイメージを持ちますが、ここでは決して暗くなく、むしろ明るく表現している所が、自由奔放でポジティブな性格の李白っぽいですね。
あと、個人的には「(このような)しがらみのない素敵な関係を築き(永く無情の遊を結び)」の部分も気に入っています。
「無情」は通常だとネガティブな意味(=感情が無い)ですが、ここでは「あっさりとしてしがらみのない」と解釈しました。
「あっさりとしてしがらみのない」関係って、どんな感じの関係ですか?
そうですね…「お互いを束縛せず尊重し、会いたい時に会う」といったイメージでしょうか?
普通だとそんな関係は淡泊に見えますが、風流と言われれば風流ですね。そういう関係もありかもしれません。
ちなみに、李白がこの作品を書いたのは、44才であり、宮中で働いていた頃だとされています。
宮中で働いていたんなら、沢山人はいるのに…もしかして、李白って友だちいない…💦?
いえいえ💦李白の友だち(杜甫・王維・孟浩然・阿倍仲麻呂…)は多いですよ!ただ、この時は宮中で浮いてうまくなじめなかったようです。
なんでですか?
恐らく、李白の自由奔放で気さくな性格が、宮中の真面目でマナーを重んじる人たちとは合わなかったのでしょう。実際、李白が宮中に仕えていたのは2年ほどでした。
そっか…宮中での生活や人間関係にうまく馴染めなかったんですね。だから「月下独酌」を書いたのかぁ…でも、そんな時でもこんなに明るい作品を書くなんて、やっぱり李白は陽キャなんですね!
陽キャ笑。確かにそうかもしれません。
2、故郷を想って歌う 李白「静夜思」/阿倍仲麻呂「望月懐郷」
李白「静夜思」
【現代語訳】
井戸端にさす月明かり
地上に霜が降りたかと疑うほど、地面が月で照らされている
頭を上げて仰ぎ視る 山あいに見える月を
頭を垂れて思いやる 遠くのふるさとを
【本文】
牀前看月光 疑是地上霜
挙頭望山月 低頭思故郷
※「牀前」は「ベッド」という解釈があるが、ここでは「井戸」と解釈した。
【書き下し】
牀前(しょうぜん) 月光を看る 疑うらくは是 地上の霜かと
頭を挙げて 山月を望み 頭を低(た)れて 故鄕を思う
阿倍仲麻呂「望月懐郷」
【現代語訳】
頭を上げて東の空を見て(故郷へ帰ることを切望する)。(私の)心は(既に故郷の)奈良の辺りを駆け巡っている。
(故郷にある)三笠山の頂上では、丸くて白い月が(輝いていることであろう。)
【本文】
翹首望東天、神馳奈良辺。
三笠山頂上、想又皓月円。
【書き下し】
翹首して東天を望み 神は馳せる奈良の辺。
三笠の山頂の上に 想う又た皓月 円ならんと。
どちらの作品も、故郷を思い出すのに月が鍵となっている訳ですね✨
てゆうか、阿倍仲麻呂って、漢詩作れたんですね!
そうですね。仲麻呂はめちゃくちゃ優秀で、当時の皇帝にも頼りにされていました。19歳で中国へ渡り、55歳のころ、ようやく帰国が許されます。この時に作ったのが「望月懐遠」とされています。
36年も帰れなかったのなら、「(私の)心は(既に故郷の)奈良の辺りを駆け巡っている」という気持ちもよく分かります。私は、地元すらろくに離れたことがないから、想像しかできませんが💦
この2つの作品は、地元を離れて下宿している方や、留学などで母国を離れたことがある人にとっては、とても印象深いものになると想います✨
もし私が故郷を離れたとき、何を見たら故郷を思い出してセンチメンタルになるでしょう?李白や仲麻呂と違って月ではない気がします笑
やはり、故郷ならではのものではないでしょうか?地元ならではの食べ物や似ている風景などがきっかけになるかもしれません💡
実際に故郷を離れた時に注目してみます!!
3、遠距離恋愛する女の気持ちを歌う 張九齢 「望月懐遠(月に望みて遠きを懐う)」
次に取り上げるのは、張九齢の「望月懐遠(ぼうげつかいえん/月に望みて遠きを懐う)」です💡
現代語訳
海の上に明月が昇り、遥か遠くに離れ離れの二人は同じ時に同じ月を眺めている。
愛し合う二人は、長い夜を恨めしく思い、夜を通して互いを強く想う。
ロウソクの灯りを消して月の光を愛でるものの、雨が降ってくるのに気付いて上着を羽織る。
(月の光を)両手に抱えて満たしても、愛する人に贈ることはできず、仕方なく寝室に戻り、恋人に逢える日を夢見て眠りに落ちる。
本文
海上生明月、天涯共此時
情人怨遙夜、竟夕起相思
滅燭憐光満、披衣覚露滋
不堪盈手贈、還寝夢佳期
書き下し
海上 明月生じ、天涯 此の時を共にす。
情人 遙夜(ようや)を怨み、竟夕(きょうせき) 相思を起こす。
燭を滅して光の満つるを憐れみ、衣を披りて露の滋(しげ)きを覚ゆ。
手に盈たして贈るに堪えず、還り寝ねて佳期を夢む。
※佳期…恋人と逢える日。
これは…めちゃくちゃロマンチックですね✨!気に入りました!遠距離恋愛の二人がお互いを想っている所が良いですね!
気に入っていただけたようで何よりです💡これは誰の恋愛模様を歌ったのかは分からないので、詳細は分かりませんが、中々に美しい漢詩だと思います✨
個人的には、後半の「月の光を両手に抱えて満たしても、愛する人に贈ることはできず(手に盈たして贈るに堪えず)」の部分がとってもオシャレで綺麗です✨
確かにそこは綺麗ですね!ちなみに、月の光を両手に抱えて送ったのは、男と女、どちらだと想いますか?
うーん…プレゼントをあげるイメージなら男→女だけど、月の光みたいな綺麗なものなら、女→男かなって感じです💡
私はなんとなく女→男のイメージですね。このあたりは、意見が分かれて面白いと想います✨
あと私としては、「愛し合う二人は、長い夜を恨めしく思い、夜を通して互いを強く想う」の箇所も良いですね✨現代でもあるあるの状況なのではないでしょうか?
好きな人と会えない夜は長く感じるものですね✨
そういうことです。この漢詩は恋愛の漢詩でもあるので、下の記事と併せて読むのもオススメです💡
4、遠く離れた所にいる親友を心配する 白居易「対月憶元九(月に対して元九を憶う)」
最後に、 白居易「対月憶元九(月に対して元九を憶う)」 を紹介します。
現代語訳
宮中の建物や門は夕方になり、人気が無くなっていく。私はひとり(職場の)翰林院に泊まり勤務して君(=親友の元稹)のことを思っている。
今夜は十五夜で、現れたばかりの月は美しく、はるか二千里もかなたにいる君のことがしのばれる。
(君のいる江陵の)渚宮(しょきゅう)の東側では、立ちこめた霧と池の波が冷やか(に月を映し出しているだろうか)。(私のいる)宮中の風呂場の西あたりからは、鐘と水時計の音が響いている。
もしかしたら、君はこの清らかな月の光を、私と同じようには見ることができないのではないか。(君がいる)江陵は土地が低くて湿気も多く、秋でも曇りが多いようだから。
本文
銀台金闕夕沈沈、独宿相思在翰林
三五夜中新月色、二千里外故人心
渚宮東面煙波冷、浴殿西頭鐘漏深
猶恐清光不同見、江陵卑湿足秋陰
書き下し
銀台金闕 夕沈沈にして、独り宿し相思いて翰林に在り
三五夜中 新月の色、二千里外 故人の心
渚宮の東面 煙波冷やかに、浴殿の西頭 鐘漏深し
猶恐る清光の 同じく見ざるを、江陵は卑湿にして秋陰足る
注釈
元九…元稹のこと。元稹は白居易の親友。
銀台金闕…「銀台」は「宮中の建物」、「金闕」は「宮中の門」。
翰林…宮中にあり、皇帝の命令を書く場所。当時の白居易の仕事場。
三五夜…十五夜。
渚宮…かつて存在していた宮殿。
鐘漏…鐘と水時計。どちらも時間を伝えるもの。
江陵…現在の湖北省にあった都市。元稹はこの土地に左遷されていた。
親友(元稹)がいる土地のことを考えて、月が見えないか心配している所が何だか風流ですね✨
そうですね。表だっては月の見える見えないを心配していますが、恐らく本当は親友自身の心配をしているのだと思います。単純に心配すると味気ないですからね💡
粋というか面倒くさいというか…笑
確かに、はじめのほうで「私はひとり(職場の)翰林院に泊まり勤務して君(=親友の元稹)のことを思っている(独り宿し相思いて翰林に在り)」って言ってますしね💡
まぁ、粋や風流と面倒くささは紙一重ですしね笑
これまで紹介してくれた作品を見てる感じ、月って遠くに離れている人や場所を想う時によく使われるのかもしれませんね。
月はどんなに離れている人の間でも一緒ですからね。(見え方は違いますが)あとは、だいたい人間が物思いにふけるのは夜だから、「遠くにいる人や場所(故郷)を想うこと」と「月」の結びつきは強いのだと思います✨
なるほど…ロマンチックさはあまりないですが、こういう友情を感じられる漢詩も良いですね。
そうですね。友情と漢詩については、以下のページでも紹介しているので、よかったらどうぞ!
4つとも月が登場しつつも別々の味わいがあって楽しかったです。ありがとうございました!
よかったです✨
その他、月が登場する漢詩として、月出(『詩経』)、送秘書晁監還日本国(王維)、峨眉山月歌(李白)、楓橋夜泊(張継)など沢山あるので、よかったら調べてみましょう!お疲れ様でした。