中国におけるファンタジー(怪異)小説の集大成!『聊斎志異(りょうさいしい)』の話を3つ紹介! | ハナシマ先生の教えて!漢文。

中国におけるファンタジー(怪異)小説の集大成!『聊斎志異(りょうさいしい)』の話を3つ紹介!

ポイント

  • 『聊斎志異(りょうさいしい)』とは、いわゆるフィクション系の話で、不思議な出来事や妖怪などが登場するエピソードが沢山収録されている。
  • 「1、人と幽霊との健気な友情の物語」では、立場を越えた健気な友情を描いた話。
  • 「2、前世の記憶を持つ男の転生談」は、主人公が何度も動物に転生して苦しみながら、人間に戻る話。
  • 「3、献身的な訳あり妻と恩知らずの夫」は、妻に命や就職を助けてもらった恩を忘れてないがしろにした結果、罰が当たる話。

こんにちは。本日は、『聊斎志異(りょうさいしい)』という本を紹介します。これはいわゆるフィクション系の話で、不思議な出来事や妖怪などが登場するエピソードが沢山収録されています。
系統としては、下のページで紹介しているものと似ています💡

先生こんにちは。漢文って割と漫画みたいな話って多いんですね💡意外です。

割と多いですし、大学受験でもたまに出ているので、これらを読んでおけば、受験対策にもなります。今回は、現代語訳のみ載っけるので、気軽に読んでみて下さい。何となく漢文っぽいファンタジー(怪異)の話の流れが分かってくると思います✨

漫画やアニメを読むノリで読んでみます!!

1、人と幽霊との健気な友情の物語

注目

1、幽霊との友情

第1章:漁師の許と不思議な青年との出会い

許(きょ)という者が、淄川(しせん・山東省にある村)の北の郊外に家をかまえ、河で漁をして生計を立てていた。毎晩、酒を河のほとりに携えていき、飲みながら漁をしていたが、飲む時には地面に酒をそそいで、「河で溺れ死んだ幽霊も飲んでおくれ」といつも祈っていた。他の者が漁をしても獲物が得られなくとも、許だけは大漁であった。

ある夕方、許が1人で飲んでいる所、青年がやってきて側を行ったり来たりするので、その青年にも酒をすすめ、気前よく一緒に飲んでいたが、とうとう不漁で、とてもがっかりした。すると青年は立ち上がり、「下流であなたのために魚を追い立ててみます」というと、ふらりと行ってしまった。そしてしばらくしてまた戻ってくると、「さぁ魚がこれから沢山来ますよ」と言う。

果たして網をあげると、5、6匹も取れた。許はとても喜び何度も礼を言い、魚を贈ろうとしたが、青年は受け取らなかった。「いつも良いお酒を貰っているのですから、これくらいでお返しとはいえません。もしあなたが良ければ、これからも交流してくれると嬉しいのですが」と言うのだ。

許は、「はじめて一緒に飲んだだけなのに、どうして「いつも」とおっしゃる?末永いお付き合いは願ってもないが、お返しできないのは心苦しい」と言って、青年の苗字を聞くと、「姓は王、字(あざな)はありません。お目にかかった時は、「王六郎(おうろくろう)」と読んで下さい」と言い、そのまま別れた。

第2章:青年の正体と別れ

次の日、許は魚を売り、余分に酒を買い、日が暮れたから河辺にやってきた。青年は先に来ていた。2人は楽しく飲み交わしたが、何杯か飲むと青年は許のために漁を手伝ってくれるのだった。こうして半年経った時、青年が言った。「あなたと仲良くなりたいと願ってから、肉親にもまさる親しい気持ちを持っていましたが、お別れする時がしました」と。

その言いぶりがひときわ悲しそうなので、驚いて訳を聞くと、言い出そうとして何度もためらった末、こう言った。「これほどの間柄なので、打ち明けても今更驚かれないと思います。それにもうお別れなのだから、はっきり言ったってよいでしょう。実は私は幽霊なのです。元々酒が好きだったもので、酔っ払って溺れ死んでしまい、もう何年もここにいるのです。以前、あなたの獲物だけが他の人より多かったのは、私のしわざだったのです。

明日は業(ごう)が満ちて私の代わりが来るはずですから、私は生まれ変わりにいきます。だから、こうやって一緒にいられるのも今夜限り、ですから悲しまずにはいられないのです。」と。

許は、聞いた当初は驚いたが、長い間のなじみなので、怖がることはなかった。そしてすすり泣きながら、酒を飲んで言った。「六郎、飲んでくれ。悲しむ必要はない。もちろん、会えなくなるのだから、全く悲しまないということはないが、業が満ちて生き返るのだから、お祝いすべきだ!悲しむべきじゃない。」と。こうして2人は、心置きなく飲んだ。

「代わりはどんな人?」と聞いてみると、「あなたは河辺でご覧になるでしょうが、昼ごろ、河を渡って溺れる女性がいます。その人です」と青年は答えた。やがて朝になったので、涙をそそいで別れたのである。

第3章:六郎の行く末

翌日、許はその異変を見ようと、河辺で恐る恐るうかがっていた。果たして、婦人が赤子を抱いてやってきて、河まで来ると水に足を取られた。赤子は岸に放り出され、手足をバタバタさせて泣いていた。婦人は、しばらく浮き沈みしていたが、すぐに岸まで這い上がりしばらく休むと、赤子を抱いて行ってしまった。

婦人が溺れていた時、許はじっとしておられず、助けにいこうと駆け出そうとしたが、この人が六郎の身代わりになるのだと思い出し、結局助けにはいかなかったのだ。しかし、やがて自分で這い上がってきたので、六郎の言葉が当たらなかったのを不思議がった。

日が暮れてから、いつもの所で漁をしていると、青年がまたやってきて、「もう一度お目にかかれるようになりました。当分は、お別れなどと言いませんよ」と言った。理由を聞くと、「あの女性が私の代わりになったのですが、私は抱いている赤子が可愛そうになったのです。私1人のために2人の命が失われてしまうから、生き返るのをやめてしまったんですよ。次の交代がいつになるかは分かりませんが、多分、私たちの縁が尽きなかったということでしょう」と答えた。

許は感心して言った。「それは素晴らしい!その行いはきっと上帝まで伝わるだろう」と。

それ以来、今まで通り会っていたが、数日するとまた別れを告げるのだった。許は、今度も代わりができたのかなと思って六郎にきくと、「そうではありません。この前の思いやりが本当に天帝に伝わり、今度、山東省の招遠(しょうえん)県の土地神として任命され、明日の朝から赴任することになったのです。もしよかったら、是非訪ねてきて下さい」と答えた。

許は祝って、「君が真っ直ぐだったおかげで神になったと聞き、安心したよ。しかし、人間と神様では身分が違いすぎる。遠路が嫌という訳ではないが、行ってよいものか」と述べると、六郎は「いらっしゃればよいのです。心配はいりません」と言い、何度も来て欲しいことを伝えて去った。

第4章:2人の変わらぬ友情

許が家へ帰り、すぐに旅支度をととのえて六郎のもとへ向かおうとすると、妻は笑って「ここから何百里も離れているのですよ。たとえそのような土地が本当にあったとしても、泥人形(=土地神のご神体)じゃ話すらできないじゃない」と言う。しかし許は聞かず、とうとう招遠県までやってきた。

宿に泊まり、宿の主人にその土地の人祠の場所を聞いてみると、主人はびっくりして言った。「お客様の名前は、もしや許とおっしゃいませんか?」許が「そうです。どうしてご存じか?」と言うと、さらに主人は言った。「お客様の出身は、淄川(しせん)でございましょう」「そうです。なぜ知っておられるのです?」と聞いたが、主人は答えずにそそくさと出て行った。と、たちまち許のもとへ周囲の人がやってきた。

みなは、「何日か前、夢で神様が、「淄川の許という友人がもうじきやって来るから、旅費を助けてやってくれ」とおっしゃいましたので、待っていたのです」と言うのだった。許も不思議に思い、祠へ行って祈った。「君に別れて以来、寝ても覚めても忘れられず、遠いところまでいつかの約束を果たすためにやってきたのだが、ここではまた、夢で土地の人の知らせを聞き、嬉しかったよ。お供えをもっていないのは恥ずかしいが、酒は用意してある。もし私のことを見捨てないのなら、昔のように一緒に飲んで欲しい」と。

そう祈ると、紙銭(=神様や死者へのお供え物)を焼いた。すると、にわかに後ろのほうに風が起こり、しばらく回って散っていった。その夜、夢の中で六郎がやって来た。清楚な身なりであり、いつもとは全く違う雰囲気であった。そして礼を言って「はるばる訪ねてくれて嬉し涙が流れるが、身分は低いものの職に就いている身、中々思うように会うことができない。とても近くにいながら、山河に隔てられているように遠く、それがとても悲しい。しかし、以前のよしみに報いるため、土地の者から贈り物をさせよう」と言った。

数日滞在した後、許が帰ろうとすると、村の者が丁重に引き留め、代わる代わるもてなすと共に、餞別を競って贈った。召使いや子供たちが集まって、許を見送った。また旋風が起こり、十里あまりもついて来た。許は再拝して言った。「六郎よ。元気でな!これ以上遠くまでご足労には及ばない。君はとても優しい。もちろん、この土地に福をもたらすことだろう。昔なじみが頼むまでもなく」すると、風はしばらく回ってから去ってしまった。一緒についてきていた村人も不思議に思いながら帰って行った。

許は家へ帰ると、暮らしにゆとりができたので、漁をやめた。その後、招遠県の土地神の様子を尋ねると、その霊験(れいげん)は打てば響くようにあらたかだという。これは章丘(しょうきゅう)県の石抗荘(せきこうしょう)の話だとも言うが、どちらが正しいかは分からない。

『聊齋志異』巻一より 章立てはオリジナルで作成。

漢文にしては話が長い気がしますが、面白いのでスラスラ読めました!許と王六郎の友情がとても微笑ましいです✨

王六郎が幽霊であることをカミングアウトした時点で、許は怖がったり、避けたりしてしまう可能性もある訳です。人間は、未知の存在を怖がったり、自分にデメリットがありそうな人を簡単に切り捨てることができたりする生き物ですし。

でも許は、六郎が幽霊かどうかより、彼との友情を優先した訳ですね。素敵です✨

そして土地神として生まれ変わった六郎は、来てくれた許を精一杯もてなす訳ですね。

2人の関係は、以前紹介してもらった強い絆を築いた人たちに勝るとも劣らないと思います!私も立場が変わっても、遠くに居ても、大切にできる友人が作れると良いなぁ✨

2、前世の記憶を持つ男の転生談

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2、前世の記憶を持つ男

第1章:素行不良が原因で馬として転生させられる

劉(りゅう)孝廉(こうれん)は、前世のことをよく覚えていた。亡くなった私(=作者)の兄と同じ年に科挙に合格した仲だったので、包み隠さず話してくれたことがある。

はじめに生まれた時は、土地の有力者で、素行不良を重ねたあげく、62歳で死んだ。そこではじめて閻魔大王に会うと、地方の名士格で待遇された。椅子をもらい、茶をご馳走された。

その茶をこっそり覗いてみた所、大王の茶は澄んでいるのに、自分の茶は濁っていた。これが迷魂湯(めいこんゆ)というものに違いないと思い、大王がよそ見をしたすきに、湯飲みを長机の隅でこぼし、飲んだふりをした。

しばらくして、大王は劉の生前の非行を調べ、鬼卒たちに引きずり降ろして罰として馬にしろと命じた。たちまち、荒々しい鬼卒に引きずられ、ある家へやってきたが、敷居が高すぎて越えることができない。もたもたしていると、鬼卒に殴られ、それがあまりに痛いので倒れたが、ふり返ってみると、自分は馬小屋の中にいた。

しかも、「黒馬が出産したぞ!オスだ!」という人間の声が聞こえた。劉の意識は実にはっきりしていたが、しかし、ものは言えなかった。ひどく腹が減ったので、やむをえず牝馬にとりついて乳を飲んだ。

第2章:なんとか人間に転生しようとするも…

こうして4、5年経つうちに、(馬である劉の)身体は大きくなったが、鞭で打たれるのが恐くてたまらず、鞭を見ると恐れて逃げた。主人が乗るときは、あおり(=馬の胴に付けて、泥はねを防ぐ布)を敷き、くつわを緩めてゆっくり進むので、それほど苦痛ではなかった。

しかし、召使いや馬の管理人の場合、したぐら(=乗る部分の下に敷く布)もつけず乗り、くるぶしで挟んだり蹴ったりするから、痛みが肝まで伝わった。痛くてどうしようもなくなり、3日何も食べずに死んだ。

冥府へ来ると、大王は(劉の)罰の期限がまだ満ちていないのを調べ、わざと罪を逃れようとした罪を責め、皮をはいで犬とした。がっかりして生まれ変わるのを嫌がっていると、鬼卒たちが寄ってたかって殴りつける。痛くてたまらないので、野原に逃げ出し、いっそ死んだほうがましだと思ったので、絶壁から身を投げた。ひっくりかえったまま起きることができない。

そこでふり返ってみると、自分は穴の中で寝ていて、牝犬が舌で舐めてくる。そこで、またもやこの世に生まれてきたことが分かった。その後大きくなり、自分の糞尿を見れば、やはり汚いとは分かったが、香ばしいにおいがした。しかし食べなかった。

犬となって何年も経ったが、常に我慢できず死のうと思っていた。しかし一方で、わざと罪を逃れようとしたと大王に思われるのを恐れていた。その上、主人がまた世話をしてくれて殺そうとしない。そこで、たくらんで主人の太ももにかみつき、肉を食いちぎると、主人は怒って棒で劉を撃ち殺した。

第3章:蛇になった劉のひらめき

大王は死んだ事情を問いただし、犬としての劉の振る舞いを怒り、数百回ムチ打ちさせてから、蛇にした。暗室に閉じ込められ、暗くて空が見えない。気が滅入っていけないので、壁づたいに這い上がり、天井に穴をあけて外へ出た。

自分の身を見てみると、草むらの中に伏していて、まぎれもなく蛇であった。そこで、生き物を傷付けないことを誓った。飢えた時は木の実を食べた。こうして1年だった。

自殺してもいけないし、人を傷つけて死んでもいけない。劉は、なんとかうまく死ぬ方法はないものかとずっと考えていたが、名案は浮かばなかった。

ある日、草の中で寝ていると、車の通る音が聞こえたので、急いでその道へ出て行った。すると車にひかれて身体が2つに切れてしまった。

劉があまりに早く戻ってきたのを怪しんだので、劉は申し開きをした。大王は、罪もないのに殺されたということで許し、償いが終わったということで、また人間にしてくれた。

これが劉さんなのだ。劉さんは、生まれた時から言葉を使うことができ、文章でも書籍でも、読めばそのまま暗記できてしまうのだ。そして、1621年、孝廉という役職となった。

劉さんは、馬に乗るときには必ずあおりを厚くするようにし、馬を股で挟むということは、鞭で打たれるより辛いことだと、周りに言っていた。

『聊齋志異』巻一より 章立てはオリジナルで作成。

人間→馬→犬→蛇→人間と転生していっているんですね💡
現代だと「このすば」や「リゼロ」など、転生ものはめちゃくちゃ多いですけど、下地は漢文に存在していたんですね。繋がりが見えて面白いです✨

よい視点だと思います💡現代日本では、多種多様な漫画やアニメが生まれていますが、核となる設定は、漢文で既に登場していることが多いです。その意味で、漢文の怪異小説は、現代漫画・アニメのルーツの1つといってよいかもしれません

あと、前世の行いが来世に引き継がれるというのも、改めて見ると面白いです。マオさんは、悪いことしたら死んでから地獄に落ちたり、動物に生まれ変わったりすると思いますか?

うーん…なんとなく死後の世界を信じているので、割と思います。でも個人的には、動物に生まれ変わるのが罰ではない気がします。私ネコに生まれ変わりたいので笑

この話を見るに、昔は動物へ生まれ変わることが罰だったようですが、マオさんがおっしゃるように、この価値観は、必ずしも現代には通用しないかもしれません。そのズレも面白いですね✨

3、献身的な訳あり妻と恩知らずの夫

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3、献身的な妻と恩知らずの夫

第1章:出会いと女性の献身

武挙に合格した石(せき)は、官職を得ようとし、金を持って都に旅立ったが、山東省の徳州(とくしゅう)まで来た時に病気となり、吐血して起きられず、いつまでも舟の中で横たわっていた。しもべに金を持ち逃げされ、石は激しく怒ったため、病気はいっそう悪くなり、金と食料が尽きてしまった。

船頭たちは、石を置き去りしようと相談していた。そうしていると、すれ違った舟の女が、自分の舟に石を乗せたいと申し出た。船頭たちは喜び、石を女の舟に移した。石が女を見てみると、女は40ながら、衣服はあでやかで、雅やかだった。

石はうめきながら感謝した所、女は石をじっくりながめ、「あなたは昔に労咳(=結核)にかかっていたようで、今では死にかけています」と言う。

石はこれを聞き、大声を出して泣いた。女は言った。「私は、起死回生の丸薬を持っているの。万が一この薬で病気が治ったら、そのことを忘れないで欲しい」と。石は涙ながらに忘れないと誓った。そこで女は石に薬を飲ませると、半日ほどで良くなっていった。

女は石に寄り添って世話し、それは並の妻よりかいがいしかった。石はいっそう女に感謝した。一月あまりで、病気はすっかり治った。石は膝ではって進みでて女にたいそう感謝した。

女は言った。「私は身寄りの無い独り者です。もし年を取っているが嫌でなければ、結婚して身の回りの世話をさせていただきたいです」と。この時、石は30歳ほどで、妻を亡くしてから何年も経っていることから、これを聞いてとても喜び、2人は夫婦となった。

すると女は、自分の貯えを出し、官職を得るために石を1人で上京させ、一旦ここへ帰ってきてそれから一緒に任地へ行くよう計画を立てた。

石は上京すると、女からもらった金をばらまいて官職を求め、山東省の駐在軍の司令官となった。残りの金で馬と馬具を買い、身を立てることができた。

そうすると、石は女を年齢的に良い妻ではないと考えるようになり、お金を贈って王氏の娘を後妻として迎え入れた。しかし、罪悪感で心中は落ち着かず、女に知られないよう、女がいる徳州を避け、遠回りとして任地へ向かった。そして、1年の間、便りのみを送って会わないようにした。

第2章:恩知らずな男の裏切りと妻の怒り

たまたま、女のいる徳州へ石のいとこがやってきた。女はいとこの存在を知ると、いとこのもとまでやって来て、石の近況を尋ねた。いとこはありのままを答えた。女は石を大いに罵り、これまでの経緯を話した。

いとこは女に同情し、慰めた。「もしかすると忙しく、まだ時間がないのかもしれません。どうか手紙を書いて下さい。私が届けましょう」と。女は言われた通りにした。

いとこは石のもとへ行き、手紙を渡したが、石は相手にしなかった。さらに1年あまり経過し、女は自分のほうから石のもとへ行き、宿屋に泊まり、役所の受付に取り次ぐよう頼んだ。しかし石は対応しなかった。

ある日、石が宴会を開いているところへ、大声で罵る声が聞こえてきた。杯を置いて聞き耳を立てたときには、女がもうすだれをかいくぐって入ってきていた。石は大変驚き、生気のない顔色になった。

女は石を指さしながら罵倒して言った。「薄情者!よくこんなことをして平気でいられるの?なぜこんなに財産を貯え、出世できたのか考えてみなさい。私とあなたの関係は、ちょっとやそっとで切れるようなものではないの。妾を置きたいのなら、そう言ってくれればいいじゃない」と。

石は大変怯えた様子で、声を出すこともできなかった。ひざまづいて取り繕い、許しを請うた。女は少し機嫌を直した。石は後妻の王氏に相談し、女の妹として振る舞ってもらおうとした。王氏はたいそう渋ったが、石が何度も懇願するため、ようやく女に挨拶した。

王氏が拝礼すると、女もそれに答え、「あなたがびくびくする必要はありません。私はあなたにやきもちを焼いている訳じゃないの。ただ、人間の情として我慢できなかっただけです。あなただって、こんなろくでなしだったと知っていますか?」と言い、王氏のためにこれまでの経緯を詳しく話した。

王氏もたいそう怒り、女と一緒に石を罵った。石はただ償いをしたいと泣きつき、ようやく一段落したのであった。その後、石は門番が女を通してしまったことを責めたが、門番は鍵も閉めたままで入った者はいないと主張する。石は不審に思いながらも、女にはこのことを聞けなかった。

第3章:妻の正体と因果応報

女と王氏は、談笑するものの、折り合いがよいという訳ではなかった。女は夜食をすますと、部屋にこもって早く寝てしまい、夫が王氏と夜を共にすることを気にしなかった。

王氏ははじめ女を警戒していたが、女の様子を見て敬うようになり、まるで姑に仕えるように恭しく接した。女は、目下の者の扱いようが寛容で思いやりがあり、その目の届きようは神のようであった。

ある日、石が印綬(=役職を証明するもの)を紛失し、役所中が騒いで慌ただしくなり、探し出すことができなかった。女が笑って言った。「心配ないわ。井戸を探せば出てきますよ」と。石がそうすると、果たして見つかった。

なぜ見つかったのかを聞いても、笑うだけで答えない。盗んだ人の心当たりはあるようだが、それを伝えようとはしなかった。

こうして1年が経ったが、女の行いを見ていると、普通ではないことが多かった。石は女が人間ではないのではないかと疑い、いつも寝てから人に監視させたが、ベッドの飢えで夜通し衣服の音が聞こえるだけで、何をしているのかは分からなかった。女は王の関係は良好であった。

ある晩、石が役所へ出かけた際、留守をあずかった女は、王氏と飲み、思わず酔いすぎて狐になってしまった。王氏は憐れみ、布で覆ってやった。

そのうち、石が帰ってきたので、王氏はこのことを告げた。石は狐を殺そうとした。王氏は、「確かにこの方は狐ですが、あなたに害を及ぼした訳ではありません」と言った。しかし石は聞かず、急いで刀を探した。

ところが、女はもう酔いから覚めており、「あなたはマムシのように腹黒く、山犬のように残忍で欲深い。こんな人と添い遂げられるはずがありません。いつか飲ませた薬を返してもらいます」と言うと、石の顔につばを吐きかけた。石は氷水を浴びたようにぞくっと寒気を覚え、のどがむずがゆくなった。

吐き出してみると、かつて飲んだ丸薬であった。女はそれを拾い、怒りながら出て行った。追いかけても行方が分からなくなった。石はその夜のうちに病気がぶりかえし、吐血と咳が止まらず、半年のうちに亡くなった。

『聊齋志異』巻五より 章立てはオリジナルで作成。

これも面白いなぁ…主人公の石がクズ過ぎてびっくりしますが、最後にしっかりと罰が下っていてスッキリします笑

話の構成としてはベタですが、普通に面白いと思います。この話はフィクションだとは思いますが、石みたいな恩知らずが実際の世の中にもいる点では、妙な生々しさがありますね…💦

えぇ…こんな恩知らずな人が実際にいるんですか?💦

石ほど振り切っている人はごく少数ですが、普段から周りにしてもらっていることに対し、当然と思って恩を感じていない人は割といる気がします。

例えば、「両親に養ってもらって当たり前」「店員に丁寧な接客をされて当たり前」「恋人に親切にしてもらって当たり前」「電気やネットなど、とても便利な技術を使えて当たり前」などなど、いくらでもありますね💡

いくつか心当たりが…改めて言われてみると、人間は色んな人に支えられていたり、助けてもらったりしているんですね💦

当たり前を当たり前だと思わないのは、中々難しいことですが、石を反面教師にして、常に敬意と感謝の気持ちを持って周りの人と接したいものです

以上、『聊斎志異』から3つ話を紹介しましたが、いかがだったでしょうか?

どれも読みごたえが会って面白かったです!

よかったです。『聊斎志異』では、これ以外にも面白い話が沢山収録されているので、是非ご覧になってみて下さい。下の本には、より多くの話が収録されています。
お疲れ様でした!

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