恋愛関係の他記事はこちら
・月が登場する風流でロマンチックな漢詩 3選 孤独・恋愛・友情
みなさんこんにちは。このページでは、『詩経』に見える恋愛のうたをご紹介します。『詩経』とは、中国最古の詩集であり、日本でいう所の『万葉集』みたいな感じの本です。
もくじ
ポイント
- 『詩経(しきょう)』には、今から2500~3000年前の詩集であり、恋愛に関する作品が多く収録されている。
- 1「子衿(しきん)」は、女の子の初々しい恋心を歌った作品、2「撃鼓(げきこ)」は、兵士の妻を想って嘆き悲しむ作品、3「有女同車」は男の年上女性への恋慕を歌った作品、4「静女」はこっそり逢い引きする男女を描いた作品、5「氓」は、浮気性で甲斐性もない男と結婚してしまった女性の嘆きを詠った作品であり、それぞれ面白いポイントがある。
1、女の子の初々しい恋心 子衿(しきん)
子衿(あなたのえり)
【現代語訳】
青青としたあなたの衿、心地の良いわたしの気持ち
わたしがあなたに会いに行かなくても、あなたから連絡をして欲しい。
青青としてあなた(が付けている)佩、心地の良いわたしの気持ち
わたしがあなたに会いに行かなくても、あなたから会いに来て欲しい
(あなたは)あちらこちらを往来して、城門のあたりにいる
あなたと一日会えないと、三ヶ月も会っていないような気になる(ほど愛おしい)
【書き下し】
青青たる子が衿 悠悠たる我が心
縦(たと)ひ我往かずとも 子寧(なん)ぞ音を嗣がざらんや
青青たる子が佩 悠悠たる我が思い
縦ひ我往かずとも 子寧ぞ来たらざらんや
挑たり達たり 城闕に在り
一日見ざれば 三月の如し
【注釈】
青青=若さを暗に表している 子=あなた 音を嗣ぐ=連絡を取る 佩(おびだま)=当時のアクセサリー。腰に付けた。 城闕=城門のあたり
この詩の内容は、現代でも恋愛あるあるといえるのでは?
例えば2行目の「わたしがあなたに会いに行かなくても、あなたから連絡をして欲しい。」なんて、すごく女性っぽさ(or面倒くささ笑?)が出てきていると思いますね💡
この部分は分かりみが深いです。やっぱり、女の子は好きな人には連絡して返ってくるより、されたほうが嬉しいです。改めて言うと相当面倒くさいですね笑
まぁ恋愛では男も女も面倒くさいところありますし、面倒くささが恋愛の醍醐味みたいな所あるのでセーフです笑
あと、最終行の「あなたと一日会えないと、三ヶ月も会っていないような気になる(ほど愛おしい)」もすごく共感できます✨
特に付き合う前や付き合いたての時期は、常に一緒にいたいと思いますよね。逆に、1日会えないだけで何ヶ月も会ってないくらい好きで胸が締め付けられ、会うのが待ち遠しくなる。これも恋愛あるあるですね。
これって、本当に昔の中国の作品なんですよね?現代でもあるある過ぎてびっくりするんですけど💦笑
だいたい2500年~3000年くらい前に作られた詩です。
こう見ると、人間の心は良くも悪くもあまり変わらないのかもしれませんね💡
2、兵士が妻を想って嘆き悲しむ 撃鼓(げきこ)
第2に、「撃鼓(げきこ)」という作品を取り上げます。こちらは男性視点ですので、先の作品とはまた別の味わいができると想います。
撃鼓
【現代語訳】
太鼓の音がドンドンとなり、(戦いがはじまると)武器を握って躍動する。
国の土木工事に行い、漕という場所に城を築くが、私は一人で南のほうへ向かう。
孫子仲に従って、陳と宋を平らげたものの、孫子仲は私と共に帰らず(私はそのまま取り残され、私は)とても心配している。
(取り残された私は)ここに留まり続け、馬を失った。
(馬が)どこかと探してみれば 林の下(に倒れていた)。
生きるも死ぬも苦労を共にしようと お前と交わした約束をした。
お前の手を取り お前と一緒に老いようと(誓ったが)、
ああ遠く離れて (もう)生きられない。
ああ遠く別れて (お前との)約束を果たすこともできなくなった。
【書き下し】
鼓を撃つこと其れ鏜たり 踊躍して兵を用う
国に土し漕に城く 我独り南に行く
孫子仲に従いて 陳と宋とを平らぐ
我と以に帰らず 憂心忡たる有り
爰に居り爰処る 爰に其の馬を喪う
于に以て之を求む 林の下に
死生契闊(しせいけっかつ) 子と説(ちか)いを成せり
子の手を執り、子と偕(とも)に老いんと
于嗟(ああ)闊なり 我を活かさず
于嗟(ああ)洵なり 我を信ばしめず
【注釈】
鏜=ドンドンと 契闊=苦労
兵士である夫が、生涯の愛を誓い合った妻に送った詩ですかね?
なんだか、悲しさがロマンチックさを引き立てている気がします。
自分が死にそうな時に、妻との約束を思い出している所がすごく味わい深く感じます✨
本当に妻のことを愛しているのだと思います。やはり、自分がピンチになった際は、大切な人がまず頭に浮かぶのでしょうか?
そうかもしれません。
結局、この兵士さんは亡くなったのでしょうか…?💦
亡くなった可能性のほうが高そうですが、もしかしたら何とか帰国して妻と会えたかもしれません。
なんとか生きて帰国して欲しいなぁ…ハッピーエンド希望です!
ちなみにこの作品が元となり、「死生契闊(しせいけっけつ)」「偕老同穴(かいろうどうけつ)」という四字熟語が生まれたので、よかったら合わせて覚えておきましょう。
それぞれどんな意味ですか?
「死生契闊」=「一緒に死ぬまで苦労して協力しながら生きること」、「偕老同穴」=「一緒に老いるまで生きて、死ぬまで添い遂げる」の意味です。「同穴」は「同じ穴に入る=死ぬまで添い遂げる」となります。
どちらも、夫婦の強い絆を表す熟語です。
少し重々しいですが、憧れもします✨
3、男の年上女性への恋慕 有女同車(ゆうじょどうしゃ)
第3に取り上げるのは、「有女同車」です。
有女同車
【現代語訳】
あの子を誘ってドライブすれば、その顔は朝顔の花のよう(に美しい)。
気ままに車を巡らせば、腰の玉飾りが揺れている。
ああ美しい姜姉さん、本当に美人で雅やか。
あの子を誘って道行けば、その顔は木槿(むくげ)の花のよう(に美しい)。
気ままに車を巡らせば、腰の佩玉がチャンチャンと(響く)。
ああ美しい姜姉さん、(あの)やさしい言葉が忘れられない。
【書き下し】
女有りて車を同じくす 顔は舜華の如し
将た翺し将た翔す 佩玉は瓊琚
彼の美なる孟姜 洵に美にして且つ都なり
女有りて行を同じくす 顔は舜英の如し
将た翺し将はた翔す 佩玉は将将たり
彼かの美なる孟姜 徳音忘れず
【注釈】
舜華=朝顔 瓊琚=腰に付けるアクセサリー 舜英=木槿
参照:牧角悦子『詩経・楚辞』(角川ソフィア文庫、2012年)
読み手が姜姉(きょうねえ)さんにベタ惚れですね笑 すごく気持ちが伝わります。
なんか、好きな女性を花でたとえている所が、なんかキザだけと良いです✨
完全に姜姉さんの虜になってますもんね笑 まぁ現代でも、割とここまで盲目的になる人はいると思います。
そうかもしれません笑
ちなみに「ドライブ」って、当時はどんな車だったんですか?
当時は馬か馬車ですね。もちろんですが、当時自動車はないです笑
ここで注目して欲しいのは、「姜姉さんは語り手を好きかどうか?」です。マオさんはどう思いますか?
うーん…姜姉さんはそんなに語り手を好きじゃないと思います。
つまり、片思いということですね。それはなぜでしょう?
姜姉さんの気持ちがよく分からないから…?
確かに直接は書かれていませんね。では、最後の「やさしい言葉」とはどのような言葉でしょう?
うーん…「誘ってくれてありがとう」みたない社交辞令を、語り手は無邪気にありがたかっているのでは笑?
なるほど💡
この「やさしい言葉」は、二人の関係性を両思い・片思いどちらで解釈するかによって印象が大きく変わります。これが「有女同車」の面白い所だと思います。
片思いだったら、マオさんが解釈されるような社交辞令を、語り手は心底大事にしている訳ですね。好きな人の言葉は神の言葉に等しいですからね。ささいな言葉でとても喜んだり悲しんだりすることは、皆さんもあるのでは?
「好きな人の言葉は神の言葉」は思わず笑ってしまいましたが、あながち間違ってないかもです笑
ちなみに私は両思い派なので、「優しい言葉」は「あなたと一緒にデートできて嬉しい!」「早く一緒に暮らしたい!」みたいな、明らかに姜姉さんの好意が分かる解釈です笑
私は片思い派だけど、両思い派の解釈も分からなくはないです💡
4、こっそりと逢い引きする男女 静女(せいじょ)
静女(美しい女性)
【現代語訳】
美しい女性はうるわしく、私を町外れで待っている。
あたりはほの暗く、頭をかきつつウロウロ(して待っている)
美しい女性はうるわしく、私にツバナの花をプレゼントしてくれた。
ツバナは赤く、その女性の美しさに心が喜ぶ。
野で摘んだツバナを私にくれた。本当に綺麗で珍しい。
ツバナが美しさからではなく、その人の贈り物だからこそ(嬉しいのだ)
【本文・書き下し】
静女其姝 俟我於城隅 静女其れ姝たり 我れ城隅に俟(ま)つ
愛而不見 搔首踟躕 愛(かく)れて見えず 首(あたま)を掻きて踟躕す
静女其孌 貽我彤管 静女其れ孌たり 我に彤(とう)管(かん)を貽(おく)る
彤管有煒 説懌女美 彤管の煒たる有り 女の美を説懌す
自牧帰荑 洵美且異 牧より荑を帰(おく)る 洵に美にして且つ異なり
匪女之為美 美人之貽 匪(か)の女の美を為し 美人の貽なればなり
参照:牧角悦子『詩経・楚辞』(角川ソフィア文庫、2012年)
マオさんは、なぜこの2人がこっそり町外れで会っていると思いますか?
うーん…身分差の恋で周りの人にバレちゃいけないから?
それも解釈としてはありです。また、「お互い不倫関係で周りの人にバレちゃいけないから」でも「お互い恋愛経験がなくて若く、周りに噂されるのが恥ずかしいから」でもOKです💡
確かに、不倫でも恥ずかしいでも解釈はできますね。面白いです✨
「静女」は、主人公と女性の関係がどのようなものかを想像するのが、1つの味わうポイントですね。それによって、作品の捉え方が大きく変わります。
身分差の関係だと切なくて、不倫の関係だとハラハラして、初恋の関係だと甘酸っぱくてほほえましいですね✨どれもよいです💡
あとは最後の「ツバナが美しさからではなく、その人の贈り物だからこそ(嬉しいのだ)」、つまり、「何をもらうかではなく、誰からもらうかが大切」という考え方にも注目すると面白いです。
マオさんは、客観的に見れば特別価値があるものではないけど、大切な人からもらったから大切にしているものがありませんか?
小さい頃、おばあちゃんからもらったものは、今でも大切にしています!
素敵ですね✨値段にはない価値を見出すことができる人は、この作品が印象深く感じると思います💡
5、ダメ男に引っかかって結婚した女性の嘆き 氓(ぼう)
氓(よそから来た男)
【現代語訳】
よそから来た男がにやにやと、麻布をかかえて生糸と替えようとする。生糸を買うとは名目だけで、本当は私を口説きにくるの。
あなたに従って淇水(きすい)を渡り、頓丘(とんきゅう)までもついていく。結婚の約束を延ばすわけではないけれど、あなたにはよい仲人(なこうど)がいないから。どうか怒らないで下さい。秋には必ず参ります。
町外れの城壁に登って、復関(ふくかん)のほうを眺める。男の姿が見えなくて涙を流して悲しんだが、待つと男はやってきて、私は嬉しくて笑い出す。占いの結果が悪くなかったならば、あなたの馬車で迎えに来てね。荷物をまとめてついていきます。
桑の葉の落ちる前、その葉はつやつやと輝いている。でもああハトよ、桑の実を食べ過ぎてはいけない。ああ女よ、男と恋に溺れてはいけない。男は恋に溺れても、正気に戻ることができるけど、女は情に溺れたら、目を覚ますすべがないものだ。桑の実が落ちる時、その葉は黄ばんでしおれる。あなたの元へ嫁いでから、三年もの間貧しさに耐えてきた。
満々と水が流れる淇水(きすい)の川、馬車の装飾を濡らしてまでもやってきた。
女の思いは昔のままなのに、男は浮気な振る舞いばかり。男は勝手のし放題、あちらこちらに浮気する。
三年の間あなたの妻となり、所帯の苦労を共にして、朝早く起きて夜遅くに寝て、朝を共に迎えました。なのに、あなたは(結婚の際)の言葉を(忘れ)ひどいことばかりします。
兄弟たちは何も知らず、私は馬鹿にしてばかり。静かに思い返してみれば、自分が可愛そうで仕方が無い。
あなたと共に老いるまで一緒だと願ったのに、実際に年老いた今、あたなは私を悲しませます。
淇水には岸辺があり、沢には堤があるように、結婚前の楽しい暮らしでは、笑ったりしゃべったりして和やかだった。
(そして結婚の時になって)はっきり言ってくれた誓いを、ここまで果たしてくれなかったとは思わなかった。もうどうすることもできない。【本文・書き下し】
氓之蚩蚩 抱布貿糸 氓の蚩(し)蚩(し)たる 布を抱いて糸を貿(か)う
匪來貿糸 來即我謀 来たりて糸を貿うに匪ず 来りて我に即きて謀るなり
送子渉淇 至於頓丘 子を送りて淇を渉り 頓丘に至る
匪我愆期 子無良媒 我期を愆(あやま)つに匪ず 子に良媒無ければなり
将子無怒 秋以為期 将わくば子よ怒る無かれ 秋を以て期と為さん
乗彼危垣 以望復關 彼の危垣に乗りて 以て復関を望む
不見復関 泣涕漣漣 復関を見ずして 泣涕漣漣たり
既見復関 載笑載言 既に復関を見れば 載ち笑い載ち言う
爾卜爾筮 体無咎言 爾の卜と爾の筮 体に咎言無くんば
以爾車来 以我賄遷 爾の車を以て来たれ 我が賄を以て遷らん
桑之未落 其葉沃若 桑の未だ落ちざるとき 其の葉沃若たり
于嗟鳩兮 無食桑甚 于嗟 鳩よ 桑の甚(み)を食うこと無かれ
于嗟女兮 無与士耽 于嗟 女よ 士と耽る無かれ
士之耽兮 猶可説也 士の耽るや 猶お説くべきも
女之耽兮 不可説也 女の耽るや 説くべからざるなり
桑之落矣 其黄而隕 桑の落ちるや 其れ黄ばみて隕つ
自我徂爾 三歳食貧 我爾に徂きてより 三歳食貧し
淇水湯湯 漸車帷裳 淇水湯湯として 車の帷裳を漸(ひた)す
女也不爽 士貳其行 女や爽(たが)わざるに 士は其の行を貳にす
士也罔極 二三其徳 士や極り罔し 其の徳を二三にす
三歳為婦 靡室労矣 三歳婦と為り 室労を靡(とも)にす
夙興夜寐 靡有朝矣 夙に興き夜に寐ね 有朝を靡(とも)にす
言既遂矣 至于暴矣 言既に遂ぐるや 暴に至る
兄弟不知 咥其笑矣 兄弟知らず 咥として其れ笑う
静言思之 躬自悼矣 静かに言(ここ)に之を思ひて 躬自から悼む
及爾偕老 老使我怨 爾と偕に老いに及ばんとせしに 老いて我をして怨ましむ
淇則有岸 隰則有汀 淇には則ち岸有り 隰には則ち汀(つつみ)有り
総角之宴 言笑晏晏 総角の宴 言笑晏晏たり
信誓旦旦 不思其反 信誓旦旦たるに 其の反するを思わず
反是不思 亦已焉哉 反すること是思わざりき 亦た已んぬるかな
参照:牧角悦子『詩経・楚辞』(角川ソフィア文庫、2012年)
これは…なんだか生々しいですね。現代でもそこら辺で起こってそうです…笑
ろくに働かず女性関係にだらしない男は、いつの時代でもどこにでもいるということですね。そして、それに引っかかる女性もいるということです…💦
仕事中にナンパしてくるような男は、ろくでもないということですね!!
真面目でナンパする男もいるかもしれませんが、確かにそうかもしれません…笑
マオさんは、主人公の「男は恋に溺れても、正気に戻ることができるけど、女は情に溺れたら、目を覚ますすべがないものだ」という言葉について、どう思いますか?恋愛において、男より女のほうが情が深いものでしょうか?
うーん…私はどっちかというと、男のほうが情が深い気がします💡女の恋愛は「上書き保存」ですぐに切り替えられるイメージがありますが、男は「別保存」で、失恋後には長く引きずって切り替えられないイメージです。
確かに、失恋後で言うと、男性のほうが情が深い(というか引きずる?)イメージはあります。しかし、付き合っている最中では、女性のほうが懐が深いイメージもあります。まぁワガママ放題の女性もいますが笑
結局その人や関係によりますね。私は、氓みたいなダメ男に捕まらず、誠実な男を見つけます!笑
是非良い男をゲットして下さい!笑
以上、『詩経』の恋愛の詩を5つ紹介しましたがいかがだったでしょうか?
どれも良い詩だなぁと思いましたが、特に1番目の「子衿」が共感度が高くて気に入りました!
これまでの授業で1番面白かったかも笑
私は3番目の「有女同車」が好きですね。ここまで盲目に人を好きになる様子が、とても面白いです✨2・4・5番目もそれぞれ面白い所があるので、是非ご覧になってみて下さい。お疲れ様でした!