もくじ
ポイント
- 二重否定とは、その名の通り、否定を否定する句形であり、強い肯定or義務を表す役割がある。
- 抑えておくべき二重否定は、以下の9つ。
①無(莫)不~(ざル(ハ)無シ) →~しないものはないorみな~する
②非不~(~セざルニ非ズ) →~しないことないor必ず~する
③無(莫)非~(~非ザル(ハ)無シ) →~でないものはないorみな~である
④非無~(~無キニ非ズ) →~がないことはないor必ず~である
⑤未嘗不~(未ダ嘗テ~ずンバアラズ)→今までに~しなかったことはないor今まで必ず~してきた
⑥無A不B(AトシテB(セ)ざルハ無シ)→BしないAはいない=AはみなBする。
⑦不可不~(~セざルベカラず)/⑧不能不~(~セざル能ワず)/⑨不得不~(~セざルヲ得ず)
→~しないことはできない=必ず~しないといけない
- ①②③④⑤⑦⑧⑨は、句形として丸暗記するよりも、後→前に従って素直に現代語訳する感覚をまず持つべし。ただし、「無不→~しないものはない→みな~するor必ず~する」のように、しばしば意訳される点に注意するべし。
- ⑥はややイレギュラーだが、①にA=主語が登場しているだけなので、過度に身構えて覚える必要はない。
こんにちは。本日は二重否定について学びましょう!
こんにちは。授業の他、この前否定形については勉強しましたが、二重否定はその応用編って感じですか?
そんな感じです。否定形には、様々なバリエーションあり、今回のような二重否定や、全否定・部分否定などがあります。
ややこしいですね…💦
これだけ聞くとややこしいですが、実際はそんなに難しくありません。身構えずに、軽い気持ちでチャレンジしてみましょう。
否定形がマスターできれば、問題の得点力は高まります!
難しくなくて点数がアップするならやります笑!
1、二重否定は日本語でも用いている!
それで先生、二重否定って何でしたっけ?
二重否定とは、その名の通り、否定を否定する句形であり、強い肯定を表す役割があります。
強い肯定ってどういうことですか?
そうですね。日本語で例を挙げてみましょうか。
(例)私は、日課の散歩をしなかったことはない。
なるほど💡この例文だと、「私はどんな日でも絶対に散歩に行っている!」っていうように、散歩に毎日行っていることを強調しているんですね?
その通りです。まぁ日本語だと「遊びに行きたくないこともない」のように、曖昧のニュアンスを含む二重否定を使う時もありますが、漢文では大半が強調です。
二重否定っていうと身構えちゃうけど、別に日本語でも使っているんですね💡
意味も単に強調するだけですし、楽勝かも✨
その気持ちは大切です。
では、二重否定のパターンを4(+1)つ抑えましょう!
2、無不・非不・無非・非無・未嘗不は強調の意味 「必ず~」「みな~」という訳し方を抑えよう
まずは、二重否定の5パターンを下にまとめます。
①無(莫)不~(ざル(ハ)無シ)
~しないものはないorみな~する
②非不~(~セざルニ非ズ)
=~しないことないor必ず~する
③無(莫)非~(~非ザル(ハ)無シ)
=~でないものはないorみな~である
④非無~(~無キニ非ズ)
=~がないことはないor必ず~である
⑤未嘗不~(未ダ嘗テ~ずンバアラズ)
今までに~しなかったことはないor今まで必ず~してきた
ポイント
・二重否定は、後ろの語句を強調したいために用いる。
・二重否定は、後ろの漢字→前の漢字の順番で読んでいく。
・後→前に従って素直に現代語訳すればよいが、回りくどいので、「無不→~しないものはない→みな~する」のように、しばしば意訳される点に注意。
⑤のように、下の「不」から上の「不」「未」に返るときは、「~ずンバアラ(ズ)」と読む。
似たものがあって紛らわしいけど、要は「後→前」の順番で解釈していって、適宜意訳すればOKなんですよね?
そうです。それさえ知っていれば、別に上の二重否定を一つ一つ暗記する必要などありません。
普通に日本語の感覚で解釈しましょう!
意訳も、「~しないものはない→みな~する」みたいに、普通に日本語として言い換えることが可能ですし、特別覚えなくても、「そんな風に意訳できるんだ」って何となく抑えておくだけで大丈夫ですね💡
その通りです。
漢文とはいっても、結局は日本語のセンスや能力が試されている部分が大きいことを知っておきましょう!
3、無A不B(AトシテB(セ)ざルハ無シ)に注意!
ただし、これから紹介する変則的な二重否定は、しっかりと抑えておく必要があります。
⑤無A不B(AトシテB(セ)ざルハ無シ)
BしないAはいない=どんなAでも必ずBする。
ポイント
・①「無不」と比べ、Aという主語が登場し、主語が「無」と「不」の間に挟まる形。
・意味は①「無不」とほとんど変わらない。
なんか変則的で良く分からないです💦
見た目に惑わされないで大丈夫です。よく見てみましょう。①と同じく、「無」「不」が使われていますね?①にA=主語を加えて「無A不B(AトシテB(セ)ざルハ無シ)」となっただけです💡
そっか💡AとかBとか言ってるけど、元々「~」になっているのが「B=動詞」になっているだけですね。
その通りです。ただし、A=主語が「無」の後に来ることには注意しましょう!
でも、そもそもなんで主語の前に「無」が来るんですか?
普通に「A無不B(AはBせざるは無し)」でよくないですか?
それだと単に「A単体がBしないことはない」となり、「どんなAでも~」という全体のニュアンスが出ないです。主語を「無」の意味に持ってくることにより、「どんなAでもBしないことはない」という意味となるのです。
1、人無不息。(人 息せざるは無し。)→人間は息を必ずする。
2、無人不息。(人にして息せざるは無し。)→どんな人間でも必ず息をする。
1と2の例文で、それぞれ微妙にニュアンスが異なるのが分かりますか?💡
1だと単に1人の人間が必ず息をするという意味ですが、2だと人間全体が必ず息をすることになっていて、微妙に異なりますね💡
その通りです。なお、「A無不B(AはBせざるは無し)」のAが主語ではなく、目的語になる場合もあるので、それも気を付けておきましょう。
(例)→無書不読。(書として読まざるは無し。)→どんな書物でも必ず読んだ。
4、不可不・不能不・不得不は強い義務を表す二重否定
最後に、強い義務を表す二重否定の句形を3つ抑えれば、二重否定は大丈夫です💡
⑥不可不~(~セざルベカラず)
⑦不能不~(~セざル能ワず)
⑧不得不~(~セざルヲ得ず)
~しないことはできない=必ず~しないといけない
⑦は「~せずにはいられない」のほうが適当な場合あり。
ポイント
・間に挟まっている「可」「能」「得」は可能の意味である。
・「不可/不~」「不能/不~」「不得/不~」で区切ってみると分かりやすい。「~しないことができない」となり、これを分かりやすく整えると「必ず~しなければならない」という強い義務を表すようになる。
・「不可or能or得」と「不」が離れることもある。
(例)「不得陳言而不当。(言を陳(の)べて当たらざるを得ず。)」→意見を述べたら、(その通りに)行わない訳にはいかない。
「不」が「可」「能」「得」を挟んでて、難しそう…💦
そんなに身構える必要はありませんよ!上のポイントをご覧になってみて下さい。
その上で、以下の例文を解釈してみましょう💡
・人不可不食。→人は食(く)らざるべからず。
えっと、直訳すると「人は食べないことをできない」で、つまり「人は必ず食べないといけない。」ってことですね。まぁご飯食べないと死んじゃうので、当たり前ですが笑
その解釈でOkです!一見ややこしく見えますが、冷静に素直に解釈していって、最後に意訳すれば問題ありません✨
5、練習問題
二重否定の句形を9つ抑えたことで、今度は練習問題でしっかりと定着させましょう。
以下の漢文を書き下した上で、現代語訳しましょう。
出典→①『三国志』 ②『呂氏春秋』 ③『十八史略』(一部改変) ④『戦国策』 ⑤『詩経』 ⑥→『論語』 ⑦→『荀子』 ⑧→『史記』 ⑨→『韓非子』
※⑤「死」→枯れる。 ⑧「毀」→誹謗中傷。
今回は割と簡単かな?
今回はできる限りシンプルなのを厳選しました!解答は以下の通りとなります。
練習問題 解答
①夫礼無不敬。( 夫れ礼は敬わざる無し。 )
→そもそも、礼とは(他者を)敬わないことはない。
orそもそも、礼とは(他者を)必ず敬うものである。
②人之情、非不愛其子也。(人の情、其の子を愛さざるに非ざるなり。)
→人の心情とは、自分の子どもを愛さないことはない。
or人の心情とは、自分の子どもを必ず愛すものだ。
③莫不失色。(色を失わざるは莫し。)
→恐怖しない(者)はいなかった。or皆恐怖した。
※「色を失う」は「恐怖で顔色が青ざめる」の意味。
④国亡者、非無賢人、不能用也。(国亡ぶは、賢人無きに非ず、用うること能わざるなり。)
→国が亡ぶのは、賢者がいなかったのではなく、(賢者を)用いることができなかった(から)である。
※ここでの「非無」は、「必ず賢者がいる」のように訳すと文脈と少し合わない。注意。
⑤無草不死、無木不萎。(草として死せざるは無く、木として萎せざるは無し。 )
→枯れない草は存在せず、しおれない木は存在しない。
or草はすべて(いずれは)枯れ、木はすべて(いずれは)しおれる。
⑥父母之年、不可不知也。(父母の年、知らざるべからざるなり。)
→父親と母親の年齢は、必ず知っておかなければならない。
⑦父子不得不親。(父子は親しまざるを得ず。)
→父親と子どもは、必ず仲良くないといけない。
⑧魏王日聞其毀、不能不信。(魏王 日に其の毀を聞き、信じざること能わず。)
→魏王は日々その誹謗中傷を聞き、信じずにはいられなかった。
⑨未嘗不独寝。(未だ嘗て独り寝ずんばあらず。)
→今まで1人で寝ないことはなかった。or今まで必ず1人で寝てきた。
④は、「必ず~ある」で訳すと「国が亡ぶのは、必ず賢者がいたが、 (賢者を)用いることができなかったからである。 」となり、なんか変ですね💦
そうですね。①②③⑤はどちらで訳しても大丈夫ですが、④は素直に訳したほうが良いですね。⑥⑦は意訳したほうが良いですね。
このように、二重否定は文脈によって訳し方を使い分けるべきです💡
句形を覚えるというより、文脈にそってうまく強調の意味が表せるよう解釈できるようになるべきですね!
そういうことです!お疲れ様でした!